「日航123便墜落事件 JAL裁判」青山透子著/河出書房新社

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 日本航空123便が御巣鷹の尾根に墜落してから37年が経つ。世間の関心が薄れていくなかでも、事件は終わっていない。123便の遺族が、日本航空に対してボイスレコーダーの開示を求める裁判を起こしている。本書は、その記録と著者の分析をまとめたものだ。

 単独機としては、空前絶後の犠牲者数を出した日本航空123便のボイスレコーダーの録音データは、いまだに全面公開されていない。遺族が、故人の最後の状況を知りたいという気持ちを抱くのは当然としても、これを公開することは、社会的にも大きな意味がある。それは、いまだに123便の墜落原因が明らかになっていないからだ。

 もちろん公式にはボーイング社の修理ミスで圧力隔壁が破断し、そのときのショックで油圧系統が故障して、操縦不能に陥ったということになっている。

 しかし、そうした公式見解には、当初から多くの識者から疑問が投げかけられていた。同僚を123便で失った元客室乗務員の著者もその一人だ。

 疑問の一つは、123便が、なぜ米軍横田基地に着陸しなかったのかということだ。いち早く事態を察知した米軍は、万全の態勢で123便を横田基地へと誘導した。しかし、123便は着陸せず、山のほうへと機首を向けた。もしボイスレコーダーが公開されれば、その時何が起きていたのかが、分かるはずだ。

 裁判で日本航空は、遺族の気持ちに寄り添うことなく、形式論だけで非公開の判決をもぎ取った。

 私はなぜ日本航空が、123便の件に関してだけ、情報を隠し続けるのか、不思議に思っていた。本書には、その点についても、見立てが書いてある。日本航空は、昔から有力者の子弟を社員として受け入れるなど、政府とのつながりが深かった。そして、放漫経営の末の破綻から日本航空を救ったのも、公的資金だった。だから、日本航空は政府にとって都合の悪いことは何も言えないのだ。

 これまでJAL裁判のことは、大手メディアではまったく取り上げられなかった。ただ、私は123便の事件は、日本の命運を左右した最大の闇だと思っている。その闇を解くヒントを本書からみつけて欲しい。 ★★★(選者・森永卓郎)

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