「プラチナデータ」東野圭吾著

公開日: 更新日:

「プラチナデータ」東野圭吾著

 犯罪現場に残ったDNAを照合して、捜査に役立てる「被疑者DNA型記録」のデータベースの運用は2005年に始まった。その年の12月の登録件数は2132件だったが、20年末時点で140万件を超えたという。こうした捜査傾向をいち早く取り込んで小説にしたのが本書だ。

【あらすじ】捜査1課の浅間玲司刑事は、渋谷のラブホテルで起きた殺人事件の捜査に当たっていたが、現場にあった毛髪を警察庁特殊解析研究所へ持って行くように命じられた。そんな使いっ走りをなんで? と思ったが、極秘任務だという。

 その研究所ではDNAプロファイリングを行っており、浅間の持って行った毛から性別、年齢、血液型、身長を特定、容貌の画像化まで可能だという。さらに保管のDNA型の登録人物との縁戚関係まで割り出す。事実、そこで特定された犯人はすぐに逮捕された。しかし、この研究所の存在は公にされておらず、警察内部でもごく一部の人間しか知らない。捜査に利用できる個人情報に関する法案が成立しないうちに公表したら混乱を招くというわけだ。

 しかし、ある連続殺人犯「NF13」だけはどのDNA型にも適合しない。そこで駆り出されたのが浅間だった。そうこうするうちに、このDNAデータ解析システムの複雑なプログラムを作成した天才数学者が殺されてしまう。犯人とされたのは同研究所の神楽だったが、神楽にはある重大な秘密があった……。

【読みどころ】無罪が確定した被疑者が採取されたDNA型データの扱いを巡って法廷で争われているように、究極の個人情報であるDNAの扱いは慎重を要する。この問題に鋭いメスを入れ、極上のエンターテインメントに仕立てた問題作。 〈石〉

(幻冬舎 869円)

【連載】文庫で読む 警察小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    大谷騒動は「ウソつき水原一平におんぶに抱っこ」の自業自得…単なる元通訳の不祥事では済まされない

    大谷騒動は「ウソつき水原一平におんぶに抱っこ」の自業自得…単なる元通訳の不祥事では済まされない

  2. 2
    狙われた大谷の金銭感覚…「カネは両親が管理」「溜まっていく一方」だった無頓着ぶり

    狙われた大谷の金銭感覚…「カネは両親が管理」「溜まっていく一方」だった無頓着ぶり

  3. 3
    米国での評価は急転直下…「ユニコーン」から一夜にして「ピート・ローズ」になった背景

    米国での評価は急転直下…「ユニコーン」から一夜にして「ピート・ローズ」になった背景

  4. 4
    中学校勤務の女性支援員がオキニ生徒と“不適切な車内プレー”…自ら学校長に申告の仰天ア然

    中学校勤務の女性支援員がオキニ生徒と“不適切な車内プレー”…自ら学校長に申告の仰天ア然

  5. 5
    初場所は照ノ富士、3月場所は尊富士 勢い増す伊勢ケ浜部屋勢を支える「地盤」と「稽古」

    初場所は照ノ富士、3月場所は尊富士 勢い増す伊勢ケ浜部屋勢を支える「地盤」と「稽古」

  1. 6
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 7
    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

  3. 8
    「チーム大谷」は機能不全だった…米メディア指摘「仰天すべき無能さ」がド正論すぎるワケ

    「チーム大谷」は機能不全だった…米メディア指摘「仰天すべき無能さ」がド正論すぎるワケ

  4. 9
    「ただの通訳」水原一平氏がたった3年で約7億円も借金してまでバクチできたワケ

    「ただの通訳」水原一平氏がたった3年で約7億円も借金してまでバクチできたワケ

  5. 10
    大谷翔平は“女子アナ妻”にしておけば…イチローや松坂大輔の“理にかなった結婚”

    大谷翔平は“女子アナ妻”にしておけば…イチローや松坂大輔の“理にかなった結婚”