著者のコラム一覧
嶺里俊介作家

1964年、東京都生まれ。学習院大学法学部卒。2015年「星宿る虫」で第19回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、デビュー。著書に「走馬灯症候群」「地棲魚」「地霊都市 東京第24特別区」「昭和怪談」ほか多数。

小泉八雲の「怪談」は刊行から100年経っても楽しめるし怖い

公開日: 更新日:

漢字に魅了され、文字でなく美術として捉えていた八雲

 著者である小泉八雲の出生名はラフカディオ・ハーン。明治29年(1896年)に帰化してからは小泉八雲と名乗ります。

 新聞記者だった小泉八雲は、日本で外国語の教師となり、『怪談』で小説家として有名になりましたが、海外では日本での紀行文作家や随筆家として有名。著作に目を通してみると、その描写力に舌を巻きます。初めて降り立った横浜港の街並みや、はだかで泥だらけになって遊ぶ松江の子どもたちの姿など、文章を目で追いかけるだけで鮮明な映像が頭の中で結ばれていく。

 なので、私は思うのです。彼の頭の中では、きっと読者が思い浮かべるよりも遙かに現実味がある場面が描かれていたのではないかと。

 書き手は、読み手が想起する数倍の細やかなイメージを頭に描きながら筆を走らせます。『怪談』に収められている作品たちについて、はたしてどれだけ緻密な映像が彼の頭の中に描かれていたのか──それを考えるだけで、私は震え上がってしまう。

 自覚していたかどうか定かではありませんが、小泉八雲は美術的な審美眼という感覚が極めて高かったと思う。

 彼は日本の文化、とりわけ漢字に心を奪われていました。

 暖簾(のれん)や法被(はっぴ)の背に描かれた漢字一文字。その躍動する形に対して、文字ではなく美術として捉えていたというから畏れ入る。※『東洋の土を踏んだ日』(『神々の国の首都』講談社学術文庫に収録)

 漢字に対して、その強い思いを小泉八雲は作中に記しています。当時の日本ローマ字会が提唱した「日本語を書くのに英字を用いることにしよう」というスローガンに対して、「醜悪きわまる実利一辺倒の目的」と断じて強硬な反対を唱えています。

 ある意味、彼は日本人より漢字を愛した人なのではと私は思うのです。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    参政党が急失速か…参院選「台風の目」のはずが賛同率ガタ落ち、他党も街頭演説で“攻撃”開始

  2. 2

    ドジャース大谷翔平「絶対的な発言力」でMLB球宴どころかオリンピックまで変える勢い

  3. 3

    中日についてオレが思うことを言っちゃおう。一向に補強もせず、本当に勝ちたいのだろうか

  4. 4

    BoA、五木ひろし、さだまさし、及川光博…「体調不良で公演中止」が相次ぐ背景

  5. 5

    5周年のSnow Man“目黒蓮独走”で一抹の不安…水面下のファン離れ&グループ内格差

  1. 6

    参院選神奈川で猛攻の参政党候補に疑惑を直撃! 警視庁時代に「横領発覚→依願退職→退職金で弁済」か

  2. 7

    阿部巨人が今オフFA補強で狙うは…“複数年蹴った”中日・柳裕也と、あのオンカジ選手

  3. 8

    教え子の今岡真訪が蹴った“倍額提示”…「お金じゃありません」と阪神入りを選んだ

  4. 9

    兵庫県警まで動員し当局が警戒…NHK党・立花孝志党首の“あり得ない”参院選の街宣ぶり

  5. 10

    巨人無残な50億円大補強で“天国から地獄”の阿部監督…負けにお決まり「しょうがない」にファン我慢限界