「アーティストの邸宅」スージー・ホッジ著 井上舞訳

公開日: 更新日:

「アーティストの邸宅」スージー・ホッジ著 井上舞訳

 芸術家にとって、自宅は創造のインスピレーションを得る場であり、自らの美的世界を具現化した空間でもある。

 本書は、歴史にその名を刻む巨匠から、活躍中の現役アーティストまで、30人の世界的芸術家の自宅を紹介する豪華ビジュアルブックだ。

 フランス随一と称賛される19世紀の動物画家、ローザ・ボヌールは自らの収入で土地を購入した初めてのフランス人女性でもあるそうだ。

 10代初めから創作に励み、数々のサロンで入賞を重ねた彼女は、1859年、パリの喧騒から離れ、パリ南部フォンテーヌブローの森のはずれに立つ15世紀のマナーハウス「ビィ城」を購入して、生涯のすみかとする。

 そこでは3頭のライオンを含む200種を超える動物が飼われていたといい、今もビィ城には作品のモデルとなった多くの動物の剥製がいたるところに飾られている。

 英国の王立芸術院会長なども務めたビクトリア朝時代の芸術家、フレデリック・レイトン卿のロンドンの自宅兼アトリエは、シンプルなレンガ造りの建物だが、その外観とは対照的に、屋敷内はシチリア島の12世紀の宮殿をモデルにした広間・アラブホールなど、各部屋が贅を尽くした造りになっている。

 お堅い隣人の目にさらされずにモデルが出入りできるよう、秘密の通路も設けられていたそうだ。

 以降、表紙にもなっているパブロ・ピカソのカンヌ(フランス)の邸宅「ラ・カリフォルニ」やスペインのポルト・リガトの入り江にあった小さな漁師小屋に改装を重ね大邸宅に仕立てたサルバドール・ダリ、さらに日本の抽象画家・村井正誠の自宅兼アトリエを包み込み保存するように設計された記念美術館など。

 アート好きにはこたえられない一冊。

(パイ インターナショナル3630円)


最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  2. 2

    高市政権の物価高対策はもう“手遅れ”…日銀「12月利上げ」でも円安・インフレ抑制は望み薄

  3. 3

    元日本代表主将DF吉田麻也に来季J1復帰の長崎移籍説!出場機会確保で2026年W杯参戦の青写真

  4. 4

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  5. 5

    京浜急行電鉄×京成電鉄 空港と都心を結ぶ鉄道会社を比較

  1. 6

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 7

    【時の過ぎゆくままに】がレコ大歌唱賞に選ばれなかった沢田研二の心境

  3. 8

    「おまえもついて来い」星野監督は左手首骨折の俺を日本シリーズに同行させてくれた

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾