著者のコラム一覧
尾上泰彦「プライベートケアクリニック東京」名誉院長

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

受精に「PH」の攻防あり 意外に知らない“ガマン汁”の役割

公開日: 更新日:

 精液の約3割は「前立腺」から分泌される「前立腺液」で、約7割は前立腺の後ろにある「精のう」という器官から分泌される「精のう液」です。この精液の中には、精子の運動エネルギーのもととなる数々の栄養物質が含まれています。

 一方、精液を受け入れる側の女性の腟も、性的興奮がないときには、雑菌の侵入から守るために強い酸性(pH3.8~4.5)の環境にあります。ところがペニスを腟に挿入すると、ガマン汁が潤滑液の役割を果たすとともに、この環境をアルカリ性に中和してくれるのです。

 射精された精子は子宮の入り口の子宮頚管へと進みます。子宮頚管からはアルカリ性の「頚管粘液」が分泌されており、ここからはアルカリ性の環境が続きます。しかし、通常は頚管粘液の粘度が高く、精子はなかなか通れません。ただ、通過しやすい時期が定期的に訪れます。それが排卵時期です。

 排卵直前になりエストロゲンの血中濃度が上昇すると、頚管粘液の分泌量が増えて透明度が高くなり、粘液がよくのびるようになります。そうなると精子は粘液を通過し、受精が起こる卵管へと進むことができるのです。

 このように受精には「pH」の攻防があるのです。腟内に射精される精子数は約2~3億個。そのうち子宮頚管を通過できるのは1%。その後、100万分の1まで減少し、受精できるのはたった1個。それが“あなた”です。

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