ここまで回復したのは奇跡だと言われた…音楽家・建築家の畠中秀幸さん脳出血からの生還

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障害はハンディキャップではなくアドバンテージ

 面白いのはお風呂です。体の中心に“境い目”があって、左半身にはちょうどいい温度でも右半身はすごく熱く感じてしまいます。なのでいつも右に合わせて、左にはぬるいお風呂で我慢してもらっています(笑)。

 現代美術家の端さんが言った通り、今は「健常者であるA君に、障害者であるB君が入ってきた」と捉えています。両者は同時に別々のことを考えているから面白い。さらにいえば、双方の話を聞いて方向性を決めるC君の存在もあって、多重人格の様相を呈しています。

 そんな事態をすんなり受け入れられたのは、大学時代に西田幾多郎という哲学者が提唱する「絶対矛盾的自己同一」と出会い、その考えを学んでいたからです。「AとBという対立するものがあるとき、どちらが正しいというのではなく、どちらも正しいと理解する」、つまり「矛盾の中に自分を見いだす」ということを、障害を持ったことで身をもって理解しているのが今です。

 退院したのは倒れてから7カ月後。しばらくは建築の仕事に集中しましたが、徐々に音楽にも触れ、指揮をするところからはじめました。2013年に「ここまで元気になりました」の意味を込めて、北海道でコンサートを開催し、左手だけで出せる限られた音で唱歌「ふるさと」を吹きました。

 それがきっかけで知り合いのフルート職人が私専用のフルートを作ってくれて、今は左手だけでほぼすべての音が出せるようになりました。まあ、じつは右手の小指もこっそり使っているんですけどね(笑)。

 今は音楽8、建築2の割合で活動しています。音楽と建築はあまり関係ないように思えますが、私の中では互いにインスピレーションを与え合うベストな関係です。視覚=建築と聴覚=音楽が一体となるようなコンサートホールをつくる構想もしているところです。

 障害はハンディキャップと捉えられることが多いですが、私は完全にアドバンテージだと思っています。実際、建築もフルートもシンプルになって良くなりました。奇抜さや技巧ではなく、より本質に迫るものづくり、音づくりができるようになった気がします。 (聞き手=松永詠美子)

▽畠中秀幸(はたけなか・ひでゆき) 1969年、広島県出身、北海道在住。フルート奏者兼、指揮者兼、建築家。著書に「左手のフルーティスト」(音楽之友社)、CD「音の建築」がある。今夏、鍵盤の小川紗綾佳氏とともに沖縄と広島で「戦後80年祈念 平和への祈り」と題した演奏を開催。その模様を映像作品にするべく、7月末までクラウドファンディングを呼び掛けている。9月27日には、テレビ朝日「日本のチカラ」(民間放送教育協会の番組)で密着の様子を放送予定。

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