(1)薬が消える…戦争がもたらす「薬飢饉」

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 作家・中野重治は日記に娘の消毒薬が十分に得られなかったと記し、「薬飢饉」を嘆いた。喜劇役者の古川ロッパは巡業先々で薬を買い集めて備蓄した。終戦間際には医師でさえ薬を持たず、食料と交換して塩を手に入れ生理食塩水を自作した。

■薬は軍に集められた

 戦時では軍需がすべてに優先したが、薬もその例外ではなかった。軍は「感染症対策、外傷治療、熱帯病対策」を柱に赤痢、腸チフス、コレラ用の抗菌薬、消毒薬、ワクチン、脚気対策用のビタミン剤、熱帯作戦用のマラリア治療薬、外傷・戦傷用の消毒薬や包帯等の備蓄を行った。日露戦争では兵士の死者約8.8万人のうち約2.7万人が病死だったからだ。「戦争は弾薬だけでなく医療・衛生で決まる」との教訓を得た軍により、市中流通は細り、一般国民の手には届きにくくなった。それでも、太平洋戦争では軍人・軍属約230万人の死者のうち、戦闘以外の病死・餓死が多数を占めたとされる。

 重要なのは、医療の本質的な制約が「技術」ではなく「供給」にある点だ。どれほど高度な医療技術があっても、薬や資材が届かなければ機能しない。これは現代日本にも当てはまる。多くの医薬品は海外からの原料に依存しており、物流が止まれば供給は途絶える。薬飢饉は過去の特殊事例ではなく、構造的に再現されうる現象なのだ。

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