(1)薬が消える…戦争がもたらす「薬飢饉」
■持病を持つことは大きなリスク
とりわけ深刻なのは慢性疾患を抱える人々だ。高血圧、糖尿病、心疾患は日々の投薬で維持されているが、薬が途絶えれば急速に悪化する。戦時においては「持病を持つこと」は大きなリスクとなる。戦時となれば、病院は人手不足、薬剤欠乏、設備損壊が重なり、「行けば治る場所」ではなくなる。
■高齢者、身寄りのない病弱者に医療は遠い
老いて病む者に戦時は冷たい。当時の新聞は「老人も颯爽と生産戦列へ」の見出しのもと、鉄工所や木工所の第一線で働く70代の老人を取り上げ、「老人の仕事は確実」「尊い体験を活用」などとおだてあげた。その一方で、ジャーナリストの清沢洌は「老人には今は医者が薬を与えない」と、「暗黒日記」に書いた。ある医師は猛烈な下痢と浮腫に苦しむ叔母を見舞った際、「お婆さんならほっとくよりほかない」と、担当する医師に言われて往診も投薬もなかったとの話を残している。“戦力外”の高齢者や身寄りのない病弱者は、医療から遠くに置かれたのである。


















