(1)薬が消える…戦争がもたらす「薬飢饉」
第二次世界大戦後、国際社会は「力による現状変更」を禁じることで秩序を維持してきた。しかし近年、その前提は揺らぎつつある。トランプの米国、プーチンのロシア、習近平の中国など、大国が軍事力・経済力を背景に資源獲得競争に血道を上げて勢力圏を争う構図は、かつての「力こそすべて」の時代を想起させる。戦争はもはや過去の出来事ではない。私たちは「戦争前夜」とも言いえる不安定な局面に立っているとの見方もある。
こうした中で見落とされがちな視点がある。「戦時の健康」だ。現代日本では、健康は医療によって守られるものと考えられている。体調を崩せば病院に行き、薬を処方される。感染症は抗生剤で抑えられ、慢性疾患は継続的な投薬で管理される。しかしこの前提は極めてあやうい。
戦時にまず起きるのは、医薬品の供給網の崩壊だ。輸入原料は途絶え、国内生産は軍需に優先され、輸送インフラの破壊で流通も滞る。こうして生じるのが「薬飢饉」だ。これは比喩ではなく、実際に解熱剤や鎮痛剤といった基本的な薬でさえ不足し、人々は代用品や民間療法に頼らざるを得なくなる。結果として、本来救えた命が失われていく。


















