なぜ、企業は労働者を酷使するのか

公開日: 更新日:

「日本を貧しくしないための経済学」上条勇著(ナカニシヤ出版)

 とても質の高い日本経済論だ。恐怖をあおるでもなく、極論を展開するでもなく、日本経済に起きていることを淡々と解説していく。難しい経済理論は登場せず、数学もまったく使われない。出てくるのは、歴史的事実と丁寧な論理展開だ。だから経済学に詳しくない読者にも、本書は読みやすいはずだ。

 しかも、著者が語っているのは、経済をどのように見たらよいのかという「物の見方」だから、やさしくても、深く理解できる。

 もちろん、だからといって、著者に主張がないわけではない。むしろ、しっかりとしたスタンスを貫いている。それは、新自由主義が大部分の国民を幸せにはしないということだ。

 著者は、「なぜ企業が利益を追求し続けるのか」を問うことは意味がないという。永遠に増殖し続けるお金の運動体が資本であり、その資本が中心となる社会が、資本主義社会だというのだ。

 そうした定義を受け入れると、いまの世界や日本で起きていることがよく見えてくる。例えば、企業がなぜ労働者を奴隷のように酷使するのか。なぜ、不要になったら、無情に切り捨てるのか。それは、資本が自己増殖するためだ。自己増殖のためには、労働者は金儲けの道具に過ぎなくなっている。そして、増殖した資本は金融資本となって暴れまわり、バブルを引き起こしていく。著者の目には、アベノミクスによる株高も完全なバブルと映るのだ。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 2

    阪神・佐藤輝明にライバル球団は戦々恐々…甲子園でのGG初受賞にこれだけの価値

  3. 3

    FNS歌謡祭“アイドルフェス化”の是非…FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE登場も「特別感」はナゼなくなった?

  4. 4

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  5. 5

    新米売れず、ささやかれる年末の米価暴落…コメ卸最大手トップが異例言及の波紋

  1. 6

    兵庫県・斎藤元彦知事らを待ち受ける検察審の壁…嫌疑不十分で不起訴も「一件落着」にはまだ早い

  2. 7

    カズレーザーは埼玉県立熊谷高校、二階堂ふみは都立八潮高校からそれぞれ同志社と慶応に進学

  3. 8

    日本の刑事裁判では被告人の尊厳が守られていない

  4. 9

    1試合で「勝利」と「セーブ」を同時達成 プロ野球でたった1度きり、永遠に破られない怪記録

  5. 10

    加速する「黒字リストラ」…早期・希望退職6年ぶり高水準、人手不足でも関係なし