「田中角栄と安倍晋三」保阪正康氏

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 田中角栄ブームが続いている。一方で安倍政権への支持は衰えを見せない。そうした中、田中と安倍晋三を対比させたのがこの本だ。著者は執筆の動機を「政治の劣化」と説明する。

「戦後の首相で昭和時代と平成時代は大きな違いがあると思うのです。この二十数年で政治家のレベルが少しずつ低下し、政治そのものが劣化した。その原因が昭和という時代に起因しているのではないかと思い、歴史を整理してみようと考えました」

 劣化の極致にあるのが安倍首相。保阪氏は彼の特徴を「形容詞の多用」「立論不足」「耳学問」と分析する。

「私は仕事柄、よく本を読むほうだと思います。そのため本を読まない人の特徴が分かるつもりです。安倍首相には読書が少ない人の特徴がみられます。まず『美しい国』など形容詞を使うことが多い。『侵略に定義はない』などと物事を断定するが、その理由やプロセスを説明できない。もうひとつ、どんな話をしても大体は5分以上もたない。耳学問だから深みに欠けるのです」

 安倍は「この道しかない」「アベノミクスはまだ道半ば」などと威勢のいい言葉で大衆をけむに巻く。自己陶酔型であり、祖父・岸信介を妄信して日本を戦争する国家に変えようとしている。

「安倍首相には岸のほかに父方の祖父・安倍寛がいました。戦前、翼賛政治の妨害をはね返して選挙に当選した反骨の政治家です。だけど安倍首相は岸の方ばかり見て、寛から目を背けている。視点が等間隔でないところにも政治的な歪みを感じます」

 安倍の対極にいるのが田中角栄だ。

「田中は戦争中、中国に派遣されて生還した。彼は“こんな愚かな戦争で死んでたまるか”“国土が荒れ果てる戦争に何の価値があるのか”と批判精神を抱き、戦争をしないために政治があるのだという考えだったと思われます。こうした田中の遺伝子が彼の薫陶を受けた平成の首相に受け継がれ、いま安倍首相を批判している。羽田孜元首相はとくに痛烈です」

 昨年、ジャーナリストOBの会が首相経験者にアンケートを実施した。羽田は集団的自衛権は絶対に認められないとし、「安倍総理から日本を守ろう」と檄を飛ばしている。鳩山由紀夫細川護熙も国家権力を強めようとする安倍にノーを突きつけた。

「田中の亡霊が現代に蘇り、安倍首相と対峙しているのです。言うなれば、田中角栄による安倍批判。岸=安倍晋三に比べて、田中のほうが歴史的正統性を持っていることを確認すべきだと思いました」

 昭和と平成の因果関係を解明する労作だ。(朝日新聞出版 780円+税)

▽ほさか・まさやす 1939年、北海道生まれ。同志社大文学部卒。「昭和史を語り継ぐ会」主宰。「昭和陸軍の研究 上・下」「田中角栄の昭和」「昭和天皇実録 その表と裏1~3」など著書多数。

【連載】著者インタビュー

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