がれきの街から掘り出した本で図書館を開設

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「シリアの秘密図書館」 デルフィーヌ・ミヌーイ著、藤田真利子訳 東京創元社/1600円+税

 シリアにおける民主化運動、「アラブの春」は2011年3月に始まるが、首都ダマスカス郊外の町ダラヤはアサド政権に抗議する反体制運動の拠点であった。それだけに政府側の攻撃も激しく、うち続く爆撃などによって革命前に25万人だった人口が1万2000人にまで減少した。

 本書に登場するアフマドは町にとどまったひとりで、シリアが“目覚めた”11年3月には19歳だった。そして13年末のある日、友人たちが崩れ落ちた家の下に埋もれた本を掘り出すのを目にする。

 アフマドにとって本といえば退屈な教科書くらいで、ほとんど無縁だった。ところが、掘り出された本の山から拾い上げた一冊に目を通した途端、彼は震えた。知の扉が開かれ心がざわめいたのだ。そこから彼らの本の救出活動が始まる。1カ月後、集められた本は1万5000冊になり、それを保存するための図書館が開設された。政府軍に見つからないよう、レーダーも砲弾も届かない地下に造り、極秘に運営された。戦闘が終わったら持ち主が取り戻せるように、集められた本には元の持ち主の名前が記された。

 悪名高い「たる爆弾」が降り注ぐ中、日に平均25人の来館者があった。彼らにとって一冊の本は自由への扉であり、生き延びるための処方箋でもあった。幾度か停戦協定が結ばれたが、政府軍は攻撃をやめようとせず、16年8月、ダラヤは陥落、図書館も接収されてしまった。

 フランス人ジャーナリストである著者が、アフマドや他の青年たちとスカイプなどを通じてやりとりした記録をもとにしたノンフィクション。過酷な状況の中で、本を渇望する彼らの姿は、本というものの本来の力を教えてくれる。アフマドは、ダラヤ陥落後、トルコ国境に近いイドリブで、子供と女性のための巡回図書館を始めたという。「町を破壊することはできるかもしれない、でも考えを破壊することはできない」という彼の言葉が重く響く。 <狸>

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