石井光太(作家)

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5月×日 ここ最近は、新型コロナウイルス関連の取材に追われていて、昨日は病院、今日は軽症者を隔離しているホテルへ取材に行った。

 病棟はもちろんだが、軽症者用のホテルも隔離は徹底している。1日3度の食事はエレベーターホールに置かれるだけで、患者たちが各々取りに来て部屋に持ち帰る。患者同士の接触は禁じられ、外出も禁止。医療スタッフもエレベーターホールについている監視カメラで食事をとりに来る様子を見守っているだけだ。電話で緊急事態が起きたと知らされれば、防護服を身に着けて客室まで行って搬送の手続きをするが、それ以外の接触は極力避ける。

 病院でもホテルでも、職員は自嘲気味によくこう言った。

「刑務所以上ですよね」

 そんな現場を取材しているうちに、いつしか読みはじめていたのがシェーン・バウアー著「アメリカン・プリズン」(満園真木訳 東京創元社 2100円+税)だった。民間刑務所への潜入ルポだ。

 本書によれば、アメリカではドラッグの流行に伴って公の刑務所が足りなくなったため、民間の刑務所運営が急増した。こうした刑務所の目的は、更生ではなく営利であるため、人件費削減と称して1人で176人の受刑者の監視をさせる。これによって、受刑者たちの暴力、ドラッグ使用、同性愛などが見逃され、時には看守による受刑者へのレイプなども起こるという。施設のあり方は、目的によってここまで変わるのだ。

 これを読んで思い出したのは、昨年世間をにぎわせた日本郵政によるかんぽ生命保険の不正販売問題だ。郵政民営化によって、営利を追求した結果、あれだけの規模の不正が起きた。

 今後日本では、新型コロナウイルスの不況による財政難によって様々なところで民営化が起こるかもしれない。利益の名の下で倫理が失われた時、しわ寄せを受けるのは弱い立場にある人たちだ。守るべきところは守る社会であってほしいと願う。

【連載】週間読書日記

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