「バンクシー 壁に隠れた男の正体」ウィル・エルスワース=ジョーンズ著 翻訳チーム訳

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 バンクシーは世界中に知られた匿名のストリートアーティスト。イギリス西部の町ブリストルで育ち、壁にエアゾールスプレーで落書きするアウトローのひとりにすぎなかった彼は、オークションで作品に高値がつくアーティストに上り詰めた。器物損壊行為をアートに押し上げ、アートに無縁だった人々をアートの世界に誘った。お高く止まっている美術館やギャラリーをあざ笑うかのように。

 イギリスのジャーナリストである著者は、バンクシーの正体を暴こうとしたわけではなく、彼がいかにしてアートの世界を根底から覆したのかを書こうとした。手始めに、バンクシーの作品をめぐるツアーに出かけた。イギリス全土に散らばるバンクシー作品を網羅したガイドブック「バンクシー ロケーションズ&ツアーズ」を片手にお宝探し。路上の作品は消されたり、汚されたり、プラスチックカバーで保護されたりしていた。探し回った52のバンクシー作品の中で、無傷で残っているものはごくわずかだった。

 いざ取材を始めると、バンクシーに近い人たちの「沈黙の壁」は厚かった。それでも根気よく、少しずつ壁を崩していった。バンクシーはとても賢くて、一見どこにでもいるイギリス人だが、複雑な人生を生きている。匿名で有名、器物損壊者で芸術家、金持ちの反逆者。さらに、チームバンクシーのリーダー、アートイベントのオーガナイザー、映像作家の顔も持つ。

 壁に破壊的、反権威主義的な絵を描いて注目されたバンクシーは、プリント作品やキャンバス作品も手がけるようになり、商業主義と無関係ではいられなくなった。バンクシー自身、ある雑誌にこう語っている。

「正当なプロテストアートを金とセレブリティーによって汚してしまった男として記憶されたくはないよ」

 抱えた矛盾をどう乗り越えるのか。次は何を企むのか。やっぱりバンクシーから目が離せない。

(パルコ 2000円+税)

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