「初夏の訪問者」吉永南央著
杉浦草は和食器とコーヒー豆を商う小蔵屋を営んでいる。自宅に常連客が訪れる約束になっていたので急いで帰ると、靴跡があるのに誰もいない。そこにやってきた石井と話していると、近所の主婦が、来たのは男の人だったと言った。数日経ってもそれらしい客は来ない。
ある日、店の向こうのマンションの入り口で草たちを見ているヒゲの男がいた。以前、老女が自転車に荷物を載せるのを手伝った親切な男だった。別の日に、ヒゲの男が店に入ってきた。いつかの靴跡はこの男のものだと草は確信する。男は、米沢の村岡良一だと名乗った。それはずっと昔、水路に落ちて3歳で死んだ、草の息子の名前だった。
小さな町のコーヒー屋をめぐる物語。
(文藝春秋 1600円+税)