「ナースコール!」 川上途行著

公開日: 更新日:

 看護師にとってナースコールは必要だとはわかっていても悩ましいことも多いようだ。中でも多い悩みは、同じ患者が頻回にナースコールをする。大した用事でもないのにナースコールをするというもの。ある回復期リハビリテーション病棟での調査によると、患者数五十数人の病棟で1日平均551回のナースコールがあり、排泄(はいせつ)が54%、離床介助27%。排泄介助が多いのはリハビリテーション病棟の特徴だという。

 本書の主人公もリハビリテーション病院の看護師で、やたらとナースコールで呼び出す困った患者に頭を抱えていた。

【あらすじ】南玲子は看護師2年目で埼玉県蓮田市のリハビリテーション病院に勤務している。脳出血で倒れてこの病院に2週間前に転院してきた65歳の男性、通称「なかじぃ」は、ティッシュを取るにもナースコールする困り者。この日も10分ごとにナースコールを連発し、思いあまった玲子は「看護師はお手伝いじゃないのよ」と言ってしまった。

 もともと玲子はリハビリ病院を望んでいたわけではなかった。なかじぃのおしっこだけに振り回される夜勤に何の意味があるのかと疑問に思う。なかじぃのことを新任の医師・小塚太一に報告すると、「リハビリってなんの意味?」と問われる。答えられずにいると、意味がわからずによく仕事ができるものだと言われてしまう。

 玲子は一瞬体が固まるが、その後小塚と一緒にさまざまな患者を診ることでその答えを徐々につかんでいく――。

【読みどころ】手術をしたり薬を与えたりという治療と違い、リハビリは「治る」というゴールが患者それぞれで違う。それに対して医療者はどう臨むべきなのか。リハビリテーションという治療の難しさが伝わってくる。 <石>

(ポプラ社 748円)


【連載】文庫で読む 医療小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 4

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑

  3. 8

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  4. 9

    米国が「サナエノミクス」にNO! 日銀に「利上げするな」と圧力かける高市政権に強力牽制

  5. 10

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性