「評伝 宮田輝」古谷敏郎著

公開日: 更新日:

 日本の放送史上でひときわ輝くスターアナウンサー、宮田輝。生放送の時代に「のど自慢」「三つの歌」「ふるさとの歌まつり」などの名司会で全国津々浦々の会場を沸かせた。舞台の上で緊張のあまり固まる素人出演者になごやかに語りかけ、巧みなリードで言葉を引き出す。輝さんの声は日本中のお茶の間に届いた。

 平成2年に68歳で永眠してから30年余、現役のNHKアナウンサーが大先輩・宮田輝の初の評伝を書いた。生前、自分のことをほとんど語らず、自伝の類いも残さなかったが、恵美夫人が保存していた資料や録音テープ、夫人をはじめとする関係者への取材で、宮田輝の素顔を追った。

 ふっくらした穏やかな風貌、美声ではないが快い声。何事にも動じず、どんな人にも同じように接する。それを処世術と受け取る向きもあったが、輝さんには人を引きつけてやまない力が確かにあった。

 昭和41年に始まった番組「ふるさとの歌まつり」は、ふるさとの歌や踊り、民俗芸能を、テレビ画面を通じて全国に伝えた。宮田輝は司会役であり、演出家であり、プロデューサーでもあった。都市化が進む中、地域文化の掘り起こしに愚直なまでに取り組んだことが、宮田の未来を変えることになる。

 50代半ばでNHKを退職し、妻にも相談せずに政界入りを決意。全国区の顔である宮田に対して、時の総理大臣・田中角栄はじめ自民党幹部から、参院選への強い出馬要請があったという。「ふるさとの歌まつり」で全国を歩き、地方の悩みや不満をじかに聞いていた宮田は、放送の域を超えた「心のふるさと運動」を考えていたようだ。しかし、政治家としてその志を全うできたとは言い難い。

 日本列島改造論のもと、国土が変貌していった昭和という時代を地方の視点で見続けた宮田。その生涯は戦後放送史にとどまらず、昭和史の貴重な記録になっている。

(文藝春秋 2420円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「豊臣兄弟!」白石聖が大好評! 2026年の毎週日曜日は永野芽郁にとって“憂鬱の日”に

  2. 2

    川口春奈「食べ方が汚い」問題再燃のお気の毒…直近の動画では少しはマシに?

  3. 3

    あの人「なんか怖い」を回避する柔らかな言葉遣い

  4. 4

    自分探しで“変身”遂げたマリエに報道陣「誰だかわからない」

  5. 5

    (1)高齢者の転倒は要介護のきっかけになりやすい

  1. 6

    2度目の離婚に踏み切った吉川ひなの壮絶半生…最初の夫IZAMとは"ままごと婚"と揶揄され「宗教2世」も告白

  2. 7

    「誰が殺されてもおかしくない」ICE射殺事件への抗議デモ全米で勃発

  3. 8

    解散総選挙“前哨戦”で自民に暗雲…前橋出直し市長選で支援候補が前職小川晶氏に「ゼロ打ち」大敗の衝撃

  4. 9

    業績悪化で減収減益のニトリ 事業の新たな柱いまだ見いだせず

  5. 10

    チンピラ維新の「国保逃れ」炎上やまず“ウヤムヤ作戦”も頓挫不可避 野党が追及へ手ぐすねで包囲網