要所要所のリズムやタメがいい“お仕事ムービー”

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「ハケンアニメ!」

 通勤電車で奇妙な光景を見かけた。イヤホンをしてスマホをのぞきこむ若いサラリーマン。見れば早送りの映画に見入っているのだ。

 字幕があるとはいえ、ちょこまか動く人物の姿に物語もヘッタクレもあるものじゃない。あれで理解できるのは筋立てが「お約束」だらけだからだろう。動画配信の急成長などというものの、いまどきの観客の想像力たるや……と余計な心配までしたものだ。そんな流れで来週末封切りの「ハケンアニメ!」の話に移ると、まるでケナしているみたいかもしれない。

 初めて新作アニメの監督に抜擢された女性アニメーターが勢い余って売れっ子監督に「絶対ヒットさせて覇権を握ります!」と言い放つ。おかげで後に引けなくなった彼女をドタバタの嵐が襲う……という筋立てはまさに絵に描いたお約束。辻村深月の原作も定型の“お仕事ノベル”だ。

 しかしこの映画、要所要所のリズムやタメがいい。話が型通りでも演出の手ぎわは別だ。映画畑ではまだ新人と言っていい吉野耕平監督だが、コンビニ飯にひと手間かけて生まれ変わらせるようなウデは早送りなんかでは消えてしまう。主演・吉岡里帆の小作りな芝居ともども、ちゃんと映画館で見ればそれだけ器量よしになるものなのだ。

 それにしても改めて思うのは日本人の想像力に与えたアニメの威力である。個人技のマンガがしだいに文学的な域に及ぶ一方、テレビで産業化された日本アニメはお約束を乱造する量産路線を歩んだ。

 大塚康生著「作画汗まみれ 改訂最新版」(文藝春秋 869円)は「ルパン三世」などの作画監督で高畑勲、宮崎駿らの先輩格だった名アニメーターの回想記。終章に「納得できないシナリオでも妥協しなければならない仕事」の苦渋がちらりとのぞく。あの時代から、果たしてどこまで遠くへ来たものだろうか。 <生井英考>

【連載】シネマの本棚

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