「体験格差」今井悠介氏

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「体験格差」今井悠介氏

 社会のあらゆる場面で“格差”という言葉が現れる。所得、教育、地域、男女など、枚挙にいとまがないが……。

「子どもの頃の楽しかった思い出といえば、スポーツや音楽、動物園など、何かしらの“体験”ではないでしょうか。実はこの体験にも格差が存在することが私たちの調査で分かったんです。調査では、習い事のように長期的に行うものから、旅行のような単発のイベントも体験に含めました。その結果、親の世帯年収が300万円未満の家庭の子どものうちの約3人に1人が1年間で体験がゼロだったんです」

 2022年、著者が代表を務める公益社団法人は、日本で初めての子どもの体験格差について全国調査を行った。本書はその結果分析と、低所得家庭の保護者9人へのインタビューで格差の実態を描き出す。著者自身も結果に「衝撃を受けた」と言い、こう続ける。

「近所のお祭りにたった1回でも参加していれば“体験がある”と定義しています。これだけ狭く定義しても体験ゼロの子どもたちがいるんです。『年収300万円未満家庭は600万円以上と比較して、体験ゼロの子どもの割合が2.6倍多い』という結果も出たように、問題の背景には親の所得格差があります。そして今、コロナや物価高騰の影響がさらに拍車をかけているんですよ」

 手取り19万円で育ち盛りの息子2人を育てるシングルマザーの象徴的なインタビューが取り上げられている。息子たちの好物はハンバーガーだが、店に行けるのはごくたまにだけ。そして、注文するのはセットと単品を1つで、子どもに食べさせて自身は何も食べないのだという。

「世の中が不安定になるほど『体験よりも学習を優先したい』という親心は強くなります。調査でも、低所得家庭のおよそ半数が『物価高騰の影響で子どもの体験が減った、減る可能性がある』と回答しました。しかし、体験は、想像力を養って人生の選択の幅を広げる、子どもにとっての“必需品”です。あるNPOの方が旅行体験のない子どもたちを北海道に連れて行ったのですが、『現地でもゲームセンターやチェーン店に行きたがっていた』と言っていました。体験ゼロということは、“選択肢がまったくない”ということなんです」

 また、「親自身の体験の有無」も子に影響を与えることが明らかになった。見過ごされてきたまま、世代を超えて連鎖してきた体験格差にどうあらがえるのか。著者の団体は2022年に東京・墨田区を中心に全国各地で、体験奨学金事業「ハロカル」を開始した。

「貧困家庭の子どもに地域のおじちゃんがやっている道場や音楽教室のような体験活動に使えるクーポンを配布するんです。また、長野市では行政と協働して、すべての小中学生に811の体験活動で利用可能なクーポンを配布しています。この仕組みがあることで、『お菓子屋さんをしているから作り方を教えよう』とか、『ドローン技師の方が操縦の方法を教えよう』とか、住民の方々がいろんなプログラムを立ち上げて、地域活性化の効果も出ているんです。子どもの体験は社会全体で支える仕組みが必要なのではないでしょうか」

「印税は体験格差解消の活動に充てられる」と、本書のあとがきは結ばれる。踏み出す一歩はすでに示されている。

(講談社 990円)

▽今井悠介(いまい・ゆうすけ)1986年生まれ、兵庫県出身。公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事。公文教育研究会を経て、東日本大震災を契機に2011年チャンス・フォー・チルドレン設立。6000人以上の生活困窮家庭の子どもの学びを支援。21年から体験格差解消を目指し「子どもの体験奨学金事業」を立ち上げ、全国展開。本書が初の単著となる。

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