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名郷直樹「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

かっけの臨床試験 大森憲太式はなぜ非難されるのか?

公開日: 更新日:

 前回、麦飯と白米でかっけの発症を比較した島薗順次郎の方法を「臨床試験」と書き、ビタミンB1欠乏食でかっけを発症させて、その後ビタミンB1の摂取で回復するかどうかを検討した大森憲太の方法を「人体実験」と表現しました。

 しかし、厳密にいえば、どちらも臨床試験であり、人体実験です。臨床試験というと「良いもの」で、人体実験は「やってはいけないもの」というのが大ざっぱな印象だと思いますが、医療の効果は、試験管や他の動物による実験では本当の意味で効果は判定できず、人体での実験をしなければならないというのが重要なところです。つまり、医療行為の効果の判定には人体実験が不可欠で、問題はその方法が倫理的に問題がないかどうかということです。

 その倫理的視点で2つの研究を見てみると、島薗の方法は、現代の臨床試験でも用いられる麦飯の治療効果を判定するための比較対照試験ですが、大森の方法は健康な人に病気を発症させる、治療でない部分を含むため、倫理的には現代では認められにくい方法です。

 その点を加味して、島薗の方法を「臨床試験」、大森の方法を「人体実験」と書いたのですが、前者は倫理的な人体実験、後者は非倫理的な人体実験であり、どちらも人体実験に他なりません。

 しかし現代でも、ワクチンを接種した人としない人の両方にノロウイルスを摂取させ、発症が予防できるかを検討したランダム化比較試験もあり、倫理的と非倫理的の境目には、微妙なところがあるのも事実です。

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