大腸全摘手術も経験…漫画家の島袋全優さん潰瘍性大腸炎との苦闘

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島袋全優さん(漫画家/31歳)=潰瘍性大腸炎

 大腸全摘をしたら完治するって信じていました。一時的にストーマ(人工肛門)にはなるけれど、うまく小腸と肛門がつながったらほぼ普通の生活ができるって。でも、2014年から何度も手術を繰り返して少し落ち着いたのが2019年。また手術する可能性は大です。でも、いつかストーマを閉じる希望を胸に、まだ肛門を温存しています。

 始まりは、漫画家を目指し沖縄の専門学校に通っていた19歳の春でした。下痢が続き、嘔吐や血便もあったので近所の病院に行ったら、下痢止め薬が処方されました。そのうち水を飲むだけでも腹痛が起こるようになったので、こちらからお願いして内視鏡検査をしてもらったのです。それが「潰瘍性大腸炎」がわかった経緯です。

 その後、消化器専門医がいる病院で再び内視鏡を突っ込まれ、全腸型の重症と判明しました。大量のステロイドで炎症を抑え、絶食・点滴の末、約1カ月で退院しました。

 漫画家デビューが決まったのは、翌年末です。読み切りのウェブ漫画でスタートして、年明け3月からの月刊誌連載も決まりました。

 ところが、退院後も腹痛や下痢、下血が頻発しました。具合が悪くなって病院に行くと、大腸に炎症が見つかり絶食・点滴で1カ月入院。退院して2カ月もするとまた具合が悪くなって入院……。漫画を描きながらそんなことを2年間も繰り返しました。それがあまりにもつらかったので、2014年、23歳のとき「大腸全摘手術」を決意したのです。

 腹腔鏡手術で大腸を全摘して、小腸を引っ張ってきて途中に回腸嚢という便がたまるポケットを作って肛門につなげるというものでした。でも、きちんとつながるまで半年はかかるので、その間の排泄のために一時的にストーマを作りました。

 半年後に無事にストーマを閉じて肛門が復活。でも1カ月もしないうちに「腸閉塞」になって、開腹手術になりました。1カ月ほどで無事に退院したものの、しばらくしてまた具合が悪くなりました。大腸がないので便は水っぽいまま出てきます。必然的にトイレの回数が増えて肛門が非常に痛い。倦怠感とともにだんだんごはんが食べられなくなりました。

 再び入院して検査をすると、回腸嚢に縫合不全があるとわかって、そこからばい菌が入って「難治性瘻孔」を引き起こしていることが発覚しました。瘻孔は、炎症などによって皮膚や臓器にできる管状の欠損です。

 初めは内視鏡カメラでも見えないほど小さい穴だったのに徐々に広がり、痛みもエスカレート……。治療は抗生物質の点滴しかなく、1年半入退院を繰り返しながら激痛と闘いました。モルヒネも効かないようになった頃、連載が打ち切りになって初めて治療に専念することを決めました。

 2016年、IBD(炎症性腸疾患)治療で有名な三重大学病院へ行き、難治性瘻孔を治すためにもう一度ストーマを作りました。肛門を使わないことが改善の一歩だったからです。その後、沖縄に戻って縫合不全の部分が自然治癒したのを機に、約1年ぶりにストーマを閉じて肛門を復活させました。すると、わずか1カ月で瘻孔が再発……オマタに膿がたまってぶよぶよになり、うっかり毛を引っ張ったらドバッと皮膚ごと取れるというエグい再発でした。

 2017年6月に沖縄で3回目のストーマとなり、同年末に三重大学病院で回腸嚢の作り直しが決定しました。ストーマからの廃液(水に近い便)の量が多すぎて、脱水で倒れることがあると相談すると、「じゃ、ストーマも一緒に」と提案され、回腸嚢と同時に4回目のストーマ手術を受けました。

 半年後、回腸嚢がきれいについたのでストーマを閉じたところ、またまた瘻孔が再発しまして、2019年に5回目のストーマとなり、今に至っています。

 回腸嚢を作り直した2018年には沖縄から三重県に移住して、今は三重の病院に通院しています。といっても、受診は2カ月に1回ぐらい。廃液が多いと脱水になって電解質異常を起こすので、下痢止めや痛み止め、整腸剤などを処方してもらうのと、ストーマのための投薬です。

 3回目の回腸嚢作り直しの話も出る中、何度作り直しても縫合不全を起こす可能性が高いという事実を踏まえて、現状維持をしています。

 どんな厳しい状況になっても、漫画家をやめるという選択肢はありませんでした。「死ぬこと以外はカスリ傷」を座右の銘に決死の思いで描いてきたのです。でも、担当編集者に「少し手を抜いていいですよ」と言われました。さらに「絵が荒れています。体調が悪いのでは?」と鋭い読者のレビューもあって、「無理をしてもわかる人にはわかるのだ」と思い、頑張り過ぎないことを覚えました。

 日常生活では、脱水に気を付けています。それで、なんとウオーターサーバーを設置しちゃいました(笑)。

(聞き手=松永詠美子)

▽島袋全優(しまぶくろ・ぜんゆう) 1991年、沖縄県生まれ。専門学校在学中の2013年に4コマ漫画「蛙のおっさん」(月刊少年ライバル)でデビュー。19歳からの闘病をつづったギャグエッセー漫画「腸よ鼻よ」が2017年からウェブ漫画サイト「GANMA!」で連載中。9月15日に「腸よ鼻よ」(KADOKAWA)の第7巻が発売される。

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