精神・高次脳機能障害の治療に言語聴覚士の介入が重要なのはなぜか
高次脳機能障害や精神障害の治療には、言語聴覚士(ST)による介入がとても重要です。心のケア、つまりコミュニケーションによる寄り添いが大切であるためです。 そこで、われわれは「アフォーダンスの理論」を使います。米国の心理学者ジェームズ・ギブソンが1950年代後半に提唱した「人と物の関係そのもの」を大切にする理論で、認知心理学では「環境が人に行動を起こさせること、または推奨すること」という解釈になります。一方、米国の認知科学者ドナルド・ノーマンは「物が使い方を人にヒントを出すこと」という意味でアフォーダンス理論を解釈しています。
われわれはギブソンのアフォーダンス理論を使っています。たとえば、椅子は「座る」という行動を、ドアは「開ける」または「閉める」という行動を人に提供しています。物=環境が人に行動を起こさせているのです。
このことから、高次脳機能障害ではエラーレス(誤りや失敗をさせない)で日常生活が行えるように、環境を適切に設定することから始まります。内服管理が必要な患者さんに対しては、カレンダーを使って薬を管理します。これを患者さんの目につく動線に設置して、正確な内服ができるように繰り返し実践します。これが手続き記憶として自然に体で覚えて習慣化されるまで継続します。