健康は腸内の多様性に左右される…ヒトは細菌で生かされている
いまの日本は1年間で160万人が亡くなる多死社会。身近な人との永久の別れに接するたびに「人は独りで生まれ、独りで生きて、独りで死ぬ」というフレーズが身に染みる。
しかし、生物学的にはこれは正しくない。ヒトは顕微鏡でしか見えない微生物のコミュニティーを無数に抱え、微生物を養い、その力を借りて生きている。われわれの人生は微生物と共にある。実際、ヒトは39兆個の微生物細胞と共生している。健康長寿を実現するにはヒトに寄生して健康に良い影響をもたらす微生物を増やすことだ。
「細菌=病気」と思い込んでいる人もいるだろう。しかし、ヒトに感染症を起こす細菌は100種類未満に過ぎず、ヒトの腸内の細胞にすみつく細菌のほとんどは無害。むしろヒトはそれなくして生きてはいけない。ハーバード大学医学部&ソルボンヌ大学医学部客員教授の根来秀行医師が言う。
「ヒトのひとつの細胞には遺伝子(塩基配列のうちタンパク質を作るための設計図にあたる部分)が2万~2.5万個しかなく、ヒトの腸内全体にいくらたくさんの細胞が存在したとしても遺伝子の種類は変わりません。しかし、ヒトの腸内に生息するマイクロバイオータ(腸内細菌叢)には1000種類以上の細菌がいて、それぞれが多様な遺伝子を持っています。そのため全体の遺伝子数は500万個を超えます。腸内の遺伝子が多いということは、さまざまな役割のタンパク質を作ることが可能ということであり、腸がどんな環境でもすぐに対応できるのは、多様な腸内マイクロバイオータのおかげで免疫を鍛え、神経を発達させ、健康を維持しているからなのです」