歩行リハビリ支援ロボットを積極的に使用していないのはなぜか
■優秀な理学療法士による訓練の方が治療効果は高い
以前、当院でもロボットを試したことがあります。脊髄損傷によって対麻痺があった患者さんで、左右両方の下肢の筋力が低下してわずかしか足を動かすことができず、足だけで歩くことはできず、上肢を使ってなんとか自分で立つことができる状態でした。そんな患者さんにロボットスーツを装着してもらうと、ギシギシと音を立てながら立ち上がり、少しだけ歩くこともできたのです。
翌日、そのままロボットリハビリを続けようとしたところ、その患者さんはロボットの装着を拒否されました。「なぜですか? 立てて歩けたじゃないですか」とたずねると、「あれでは、自分が立って歩けるようになったという手応えがないんです。機械にやらされているだけで、楽しくありません」とお答えになりました。使う人によって成功体験の感覚は違うでしょう。そんな体験もあって、私は「ロボットは、よりよく効果的に使える対象者が限られるのではないか」という印象を持っています。
新しいリハビリ支援ロボットの開発や発表があれば、必ず実際に出向いてチェックしていますが、「これはすごい」と思えるものがまだ登場していないのが現状です。まだ、優秀な療法士の徒手的技術と、AI解析や電気刺激を併用した治療効果の方が高いと考えています。どんな状況下であっても、その患者さんに「歩きたい」という希望があれば、可能な限り寄り添い、歩行獲得を目指せる洗練した理学療法士をたくさん育成することが、私たちリハビリ専門医・指導医の役割だと思います。