(41)「お父さん、死んでしまったよ」入所の日、母にようやく伝えた

公開日: 更新日:

 仏壇はないけれど、奥の和室に遺影が置いてある。手を合わせるかと聞くとうなずいた。いくぶん若い頃の父の写真を見つめ、「ごめんねえ、お父さん」と、はっきりした声でつぶやいた。その言葉が何を意味するのか、私にはわからなかった。雨がいっそう強くなった。

 ほんの5分ほどで実家を出て、施設へと向かった。私自身もこの日が初めてだった。前日、居室に届けたカーテンや照明などはすでに整えてあった。施設の重ねての厚意に感謝した。この立ち会い以降は、面会が制限される。とはいえ、母が病院にいた頃は一切の面会がかなわなかったため、制限下でも見舞いができることでひとつ前に進んだような気がした。

 翌日、叔母たちが短時間の面会に訪れ、私も立ち会った。母がもっとも気にかけ、信頼を寄せていた妹である叔母もそのひとりで、話は弾んだ。母はほとんど表情を変えることがなく、話が理解できているのかどうかわからなかったが、かすかに口元にほほ笑みを浮かべるような瞬間もあった。

 その叔母は、この面会からわずか2カ月後、病気の再発によって急逝した。実家に戻ってひとりでいる私に、手作りのキャロットケーキを持ってきてくれるような優しい叔母だった。人の命の終わる順序はわからないものなのだとしみじみ感じている。(つづく)

▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「豊臣兄弟!」白石聖が大好評! 2026年の毎週日曜日は永野芽郁にとって“憂鬱の日”に

  2. 2

    川口春奈「食べ方が汚い」問題再燃のお気の毒…直近の動画では少しはマシに?

  3. 3

    あの人「なんか怖い」を回避する柔らかな言葉遣い

  4. 4

    自分探しで“変身”遂げたマリエに報道陣「誰だかわからない」

  5. 5

    (1)高齢者の転倒は要介護のきっかけになりやすい

  1. 6

    2度目の離婚に踏み切った吉川ひなの壮絶半生…最初の夫IZAMとは"ままごと婚"と揶揄され「宗教2世」も告白

  2. 7

    「誰が殺されてもおかしくない」ICE射殺事件への抗議デモ全米で勃発

  3. 8

    解散総選挙“前哨戦”で自民に暗雲…前橋出直し市長選で支援候補が前職小川晶氏に「ゼロ打ち」大敗の衝撃

  4. 9

    業績悪化で減収減益のニトリ 事業の新たな柱いまだ見いだせず

  5. 10

    チンピラ維新の「国保逃れ」炎上やまず“ウヤムヤ作戦”も頓挫不可避 野党が追及へ手ぐすねで包囲網