新政権誕生で軍の独裁下から生まれ変わろうとするミャンマー。その行く手は本当に明るいのか

公開日: 更新日:

「ミャンマー権力闘争」藤川大樹、大橋洋一郎著

 アウン・サン・スー・チー氏率いる野党・国民民主連盟(NLD)が大勝し、政権交代の準備が進むミャンマー。スー・チー氏に対する国民の圧倒的人気は、彼女の父が救国の英雄アウン・サン将軍であること。その神話的な名声を気品ある落ち着いた物腰のスー・チー氏に重ねているのだ。

 軍が案出した現憲法の規定で大統領にはなれないスー・チー氏だが、報道陣に問われて「私は大統領より上の存在になります」と答え、権力志向をあらわにしているのも事実。現に腹心のティン・チョーを大統領の座につけ、自身は外相、大統領府相を兼務した上に「国家顧問」ポストを新設して自分が座った。要するに大統領は操り人形なのだ。

 それゆえスー・チー氏の事実上の「独裁」に対しては西側メディアも必ずしも好意的ではない。国内に抱えるイスラム系の少数民族ロヒンギャに対する迫害問題についても、総選挙への影響を懸念して深入りを避け、国際人権団体から批判されてもいる。中日新聞特派員の記者たちによる本書は日本では珍しいスー・チー氏の“負の側面”にも触れたルポ(KADOKAWA 1500円+税)

「倒せ独裁!」山本博之著

 ミャンマー現代史の一ページを飾る「8888」。1988年8月8日、軍事独裁の圧政に抗議する学生たちのデモが頂点に達し、逮捕者への処罰として公開処刑が始まろうとするその場に現れたのが、当時英国在住だったスー・チー氏だ。政治とは無縁だったはずが、救国の英雄の娘として「第二の独立闘争」を鼓舞。これに呼応したのが若者たちだった。

 強権で抑圧する軍に抵抗すること15年に及んだ軟禁生活を支えたのも若者たち。彼らもいまや中年だが、現在の若者たちがまた氏を支え、民主化を求める運動を歴史的に受け継いできたのだ。著者は元朝日新聞のアジア総局記者。長年の取材の熱気が行間にほとばしる。(梨の木舎 2000円+税)

「アウンサンスーチーのミャンマー」房広治著

 国際派のヘッジファンド投資アドバイザーとして知られる著者だが、英オックスフォード大学に留学中の80年代に、なんとスー・チー氏の一家の下宿人だった。当時彼女は同大で教壇に立つチベット・ヒマラヤ文化研究の英国人学者の夫人。2人の息子を育てながらの人なつこくつつましやかな女性で、後年祖国の英雄となるとは誰も予想だにしなかったという。

 本書はそんな縁から始まったスー・チー氏一家との交遊録だが、ほぼ半分は証券マンとしての自分の回顧録でもある。両者が結びつくのは最後の3分の1。2012年、27年ぶりにかつての下宿の“大家さんのスー”と再会した著者はミャンマーへの投資計画を練り、精米所のネットワークを通してミャンマーの農民に新しい米栽培技術の移転を計画。これを「ミャンマーの明治維新」と呼んでいる。(木楽舎 1500円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    バタバタNHK紅白 高視聴率でも今田美桜、有吉弘行らMC陣は負担増「出演者個々の頑張りに支えられた」

  2. 2

    松山千春がNHK紅白を「エコひいき」とバッサリ!歌手の“持ち時間”に求めた「平等」の正当性を考える

  3. 3

    「将軍 SHOGUN」シーズン2も撮影開始 2026年は柄本明、平岳大ら海外進出する日本人俳優に注目

  4. 4

    ロッテ前監督・吉井理人氏が2023年WBCを語る「大谷とダルのリリーフ登板は準決勝後に決まった」

  5. 5

    菊池風磨のカウコン演出に不満噴出 SNS解禁でSTARTO社の課題はタレントのメンタルケアに

  1. 6

    ロッテ前監督・吉井理人氏が佐々木朗希を語る「“返事もしなかった頃”から間違いなく成長しています」

  2. 7

    矢沢永吉ライブは『永ちゃんコール』禁止で対策も…B'z『客の大熱唱』とも通じる“深刻な悩み”

  3. 8

    《国分太一だけ?》「ウルトラマンDASH」の危険特番が大炎上!日テレスタッフにも問われるコンプライアンス

  4. 9

    巨人オーナーから“至上命令” 阿部監督が背負う「坂本勇人2世育成&抜擢」の重い十字架

  5. 10

    現役女子大生の鈴木京香はキャピキャピ感ゼロだった