著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ディス・イズ・ザ・デイ」津村記久子著

公開日: 更新日:

 ワールドカップが開催中だが、サッカーにはいろいろあって、ワールドカップだけがサッカーではない。本書は、国内サッカーリーグの2部を舞台にした作品集だ。

 しかも1部昇格の希望があるチームも登場するが、大半は中位に甘んじているか、降格の危機にあるチーム。それでも応援し続けるサポーターの日々を描いていく。そうなのである。サッカー小説とはいっても、本書は選手を描くのではなく、徹底してサポーターのドラマを描いていく。

 たとえば、社会人になってから松江04のファンになった周治が、父方の祖母を松江に招待することを思いつく顛末を描くのが「おばあちゃんの好きな選手」。父方の祖母といっても、周治の両親は離婚しているので、会ったのは母方の祖母の通夜のときだけ。そのときに、おばあちゃんが松戸アデランテロのファンであることを知り、その1年後に松江04のファンとなった周治がおばあちゃんを思い出して招待するというわけ。ちなみに、松戸アデランテロと松江04はともに2部の中位にいるチームで、最終節に勝っても負けてもさして順位に影響はない。

「来年は自分が松戸に松江を見に行きます」と周治が言うと、おばあちゃんが少し驚いたように目を見開くラストがいい。希望があると生きる意欲が湧いてくる。周治よ、君はいい青年だ。おばあちゃんと一緒に、私たちもまた、ほっこりとした気分になる。

 (朝日新聞出版 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  2. 2

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  3. 3

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  4. 4

    片山さつき財務相の居直り開催を逆手に…高市首相「大臣規範」見直しで“パーティー解禁”の支離滅裂

  5. 5

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  1. 6

    小林薫&玉置浩二による唯一無二のハーモニー

  2. 7

    森田望智は苦節15年の苦労人 “ワキ毛の女王”経てブレーク…アラサーで「朝ドラ女優」抜擢のワケ

  3. 8

    臨時国会きょう閉会…維新「改革のセンターピン」定数削減頓挫、連立の“絶対条件”総崩れで手柄ゼロ

  4. 9

    阪神・佐藤輝明をドジャースが「囲い込み」か…山本由伸や朗希と関係深い広告代理店の影も見え隠れ

  5. 10

    阪神・才木浩人が今オフメジャー行きに球団「NO」で…佐藤輝明の来オフ米挑戦に大きな暗雲