「蕪村 己が身の闇より吼て」小嵐九八郎著

公開日: 更新日:

 江戸時代の中頃、将軍吉宗の時代。大坂湾から京都へ続く淀川沿いの土手を一人の少年が裸足で走っていた。その着物の袖と襟元には赤黒い染みが広がっている。15歳になる少年は人をあやめて故郷から逃げ出しているところだった。

 しばらくは鴨川の河原でこじきをしながら糊口をしのいでいたが、仲間に襲われほどなく遁走。その後、僧侶の弁空に拾われ寺男に。寺で俳諧と絵を学んだ男は、俳諧を飯の種にしようと江戸へ向かう。俳諧師・宋阿に弟子入りして宰鳥と名乗る。そこから幾変転、号を蕪村とし、ふたたび京へ戻り、還俗して与謝姓を名乗る。俳人・与謝蕪村の誕生である。

 画人としても、池大雅、伊藤若冲、円山応挙らと並び、当時の京都画壇の重要な一角を占めるようになる。とはいえ、己の罪過を生涯胸に抱えながら、蕪村の心は定まらぬままさまよい続ける……。

 20歳以前の生い立ちがほとんどわかっていない与謝蕪村の知られざる闇の迷宮に大胆に分け入り、その精神の内奥に迫る渾身の歴史長編。

 (講談社 1950円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景

  5. 5

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  3. 8

    三谷幸喜がスポーツ強豪校だった世田谷学園を選んだワケ 4年前に理系コースを新設した進学校

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋