「ひよっこ社労士のヒナコ」水生大海著

公開日: 更新日:

 社会保険労務士とは、「労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資すること」を業務とする国家資格で、合格率6%台という難関だ。本書の主人公はそんな難関を突破したものの、飛び込んだ世界は思いのほか厳しかった。

【あらすじ】朝倉雛子は就活に失敗し、派遣社員として働いていたが、いつ契約が切られるか不安に襲われていた。総務系の仕事を継続しているうちに資格さえあればこの不安から解放されると社労士に挑む。3年越しの勉強で見事合格したが、就職先探しも苦労の連続で、ようやく所長以下4人という小さな社労士事務所に拾ってもらえた。 新米の雛子が手がけたのは、事務機器会社の元社員の日置が自己都合ではなく会社都合の解雇にしてほしいとごねているという事案。日置は勤務態度が芳しくなく、しばしば上司から叱責を受けるが一向に改まらず、しばらく無断欠勤した上で本人から退職を申し出て手続きが取られた。

 日置が言うには嫌がらせで異動させられたのだから欠勤分は有給休暇とし、失業保険をすぐもらえるよう解雇扱いにしてほしい、と。しかし会社はそれを認めず両者は平行線をたどる。なんとか落としどころを探る雛子だが、実はそこには意外な事情が潜んでいた……。

【読みどころ】その他、就業規則に育児休業の条項を入れたがらないIT会社、事故でけがをした部下とパワハラ満開の上司との関係などが、ミステリー仕立てで展開していく。クライアントである会社の立場に添いながらも、働く人の権利も守りたいと奮闘する雛子のまっすぐな心が、ギスギスした労使関係に一服の清涼をもたらす。

 ユニークな労務ミステリー。 <石>

(文藝春秋 800円+税)

【連載】文庫で読む傑作お仕事小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  3. 3

    気温50度の灼熱キャンプなのに「寒い」…中村武志さんは「死ぬかもしれん」と言った 

  4. 4

    U18日本代表がパナマ撃破で決勝進出!やっぱり横浜高はスゴかった

  5. 5

    坂口健太郎に永野芽郁との「過去の交際」発覚…“好感度俳優”イメージダウン避けられず

  1. 6

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  2. 7

    板野友美からますます遠ざかる“野球選手の良妻”イメージ…豪華自宅とセレブ妻ぶり猛烈アピール

  3. 8

    日本ハム・レイエスはどれだけ打っても「メジャー復帰絶望」のワケ

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景