「哲学の女王たち」レベッカ・バクストン、リサ・ホワイティング編 向井和美訳

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 帯に「プラトン、デカルト、カント、サルトル……では、女性哲学者の名前を言えますか?」とある。パッと思い浮かぶのはルクセンブルク、ヴェイユ、ボーヴォワール、アーレント、ソンタグといったところか。だが、いずれも20世紀の人たちでそれ以前の名前が出てこない。本書の「はじめに」でも、ごく最近出た「哲学―100人の思想家たち」という本の中に取り上げられている女性はわずか2人(ボーヴォワールとウルストンクラフト)で、「哲学の歴史」という本に至っては女性哲学者の項目が皆無、という不均衡ぶりが記されている。

 本書は「こうした認識を変えるための試み」だ。ここでは「哲学者」という定義をあえて広く使い、これまで「政治活動家」や「学のある女性」としか見なされなかった人も取り上げ、「哲学者といえば白人の男性が肘掛け椅子で考えにふけっているイメージ」を覆そうというもの。本書には、プラトンの対話編に登場しソクラテスと議論を交わしたディオティマに始まり、前漢の歴史書「漢書」の完成に貢献した班昭、数学、天文学に秀でその哲学講義が評判だったアレクサンドリアのヒュパティアら、編年体に20人の女性哲学者が紹介されている。

 ジョン・スチュアート・ミルの妻でその著作に大きな影響を及ぼしたハリエット・テイラー・ミルや小説家として知られるジョージ・エリオットとアイリス・マードック、黒人女性活動家のアンジェラ・デイヴィスらが哲学史の一角を占めるというのも本書の特色だ。

 その他、プライバシーに関する倫理的、政治的、社会的な問題を考究するアニタ・L・アレンやイスラム教とジェンダー平等との接点に注目する研究を行っているアジザ・イ・アル=ヒブリといった、アクチュアルな問題を扱う哲学者の仕事にも目が配られており、単なる紹介にとどまらない編者たちの企図が伝わってくる。巻末には約100人の「その他の哲学の女王たち」が付され、唯一の日本人「石黒ひで」の名前も挙がっている。 <狸>

(晶文社 2200円)

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