「小説日本銀行」城山三郎著/角川文庫

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 山口県阿武町の誤送金だか誤入金が連日メディアをにぎわせたが、もっと問題にすべきは安倍晋三の「日本銀行は政府の子会社」発言だろう。無知な安倍は非常識に居直って、こんなバカ発言をする。

 中央銀行である日銀は「物価の番人」であり、インフレファイターとして通貨の価値を守る使命を持っている。しかし、ボンボンの安倍は物価などに関心はなく、株価だけが頭にあるのだろう。「株価の番人」なのだ。

 城山三郎はこの小説を書いた動機をこう語っている。

「戦争中の教育のせいか、国家というものが、いつも、わたしの頭から離れない。『小説日本銀行』などという途方もないテーマに取り組んだのも、内幕暴露的な興味は全く無く、日銀が国家として国民生活の安定に不可欠な役割を荷っており、その使命に忠実に生きようとする人間が居た場合、どういうことが起るかを、ひとつは考えてみたかったからである」

 太平洋戦争中に日銀券という紙幣が増発されたのは戦争遂行のためだった。政府は公債を日銀券に替え、それで軍需品を買ったのである。「日銀は政府の子会社なので60年で(返済の)満期が来たら、返さないで借り換えて構わない」という安倍の発言は、まさに戦争中の日本の指導者のアタマと同じである。

 しかし、日本と違って、戦争中のドイツの中央銀行、ライヒスバンクのトップたちはヒトラーに激しく抵抗した。軍備拡充のために通貨の膨張を求めるヒトラーに、総裁のシャハトをはじめ、理事たちは従わなかった。ヒトラーは怒って、「第三帝国の海の中に、ライヒスバンクという島の存在は許さない」と言い、シャハトを反逆罪で逮捕して死刑まで求刑した。最後は7年の禁錮になったらしいが、日銀現総裁の黒田東彦には望むべくもない話である。

 私は昨年末に出した「企業と経済を読み解く小説50」(岩波新書)の一冊に、この小説を挙げた。それは「エコノミスト」に連載されたこれが日銀からの有形無形の圧力を受け、同誌の編集長が左遷されるという事態まで起きたからである。

 政府から独立して金融の中立性を確保しようとする中央銀行に政府は干渉して「政府の番犬」にしようとする。安倍の発言はそれであり、それに抵抗するためにも私たちはこの小説を読まなければならない。 ★★★(選者・佐高信)

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