「竹中平蔵教授の『反日』経済学」三橋貴明著/経営科学出版

公開日: 更新日:

 ものすごく読みやすい本だ。私は1時間あまりで読んでしまった。さすがネットで圧倒的な人気を誇る著者の文章力だ。

 タイトルだけみると、竹中平蔵氏がどのような経済理論を持っているのかの分析のように見えるが、本書の中身は、著者の日本経済論だ。特にこの四半世紀になぜ日本経済が転落したのかという分析が中心になっている。

 著者の見立ては、転落の原因は、構造改革と財政緊縮だ。私は、その見立てに全面的に賛成だ。そして、その2つの政策は、竹中平蔵氏が主導したものだというのが、本書の主張だ。

 確かに形式的にはその通りだ。小泉内閣の経済財政担当大臣として、規制緩和や郵政民営化を推進したのは竹中氏だし、その後も現在に至るまで政府の重要な審議会の委員として、構造改革推進の論陣を張ってきた。また、財政政策に関しても、プライマリーバランス黒字化をずっと主張してきた。ただ、竹中氏は最近では、消費税の増税は必要なかったと主張するなど、その主張には必ずしも一貫性がない。その理由も、著者は、本書で明らかにしている。

 竹中氏自身も、日本経済が転落してよいとは思っていない。ただ、彼はレントシーカーだと著者は言うのだ。レントシーカーというのは、政府に働きかけて、法や制度、政策を自らに都合のいいように変更させて、利益を得る者のことをいう。自らに都合のよい政策変更をさせるため、それを正当化するための経済理論を展開するから、結果として経済理論に一貫性がなくなるのだ。

 例えば、竹中氏は、小泉内閣の経済財政担当大臣として、製造業への派遣労働解禁に関わり、その後人材派遣業の大手、パソナの会長に納まった。最近では、外国人メイドの解禁を主張して、実現させたが、実はパソナは、外国人メイド事業を展開していた。

 ただ、竹中氏は、規制緩和でつくり出したビジネスチャンスに自ら経営する会社で参画するのではなく、アドバイザーのような形で企業経営に関わるだけだ。その意味では竹中氏は、レントシーカーの手先と呼ぶべきだろう。いずれにせよ、本書は日本経済の本質を短時間で知るための良書だ。 ★★半(選者・森永卓郎)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 4

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 5

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  3. 8

    星野源「ガッキーとの夜の幸せタイム」告白で注目される“デマ騒動”&体調不良説との「因果関係」

  4. 9

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも