ヒップホップが人種を超え化学反応し若者文化に

公開日: 更新日:

「All the Streets Are Silent:ニューヨーク(1987-1997)ヒップホップとスケートボードの融合」

 90年代半ばのニューヨークでは、かつて場末の肉市場だった地区が最先端のクラブの点在する流行の一帯になっていた。いまは「ミートパッキング」地区として観光地化しているが、当時は人けのない危険な場所にあったのが「クラブ・マーズ」。

 ここを拠点にヒップホップが人種を超えた若者文化として急拡大していった過程をふりかえるのが先週末封切りのドキュメンタリー映画「All the Streets Are Silent:ニューヨーク(1987-1997)ヒップホップとスケートボードの融合」だ。

 この種の作品はえてして独り善がりのものも少なくないが、本作は平明に、郊外の白人少年の趣味というイメージの強かったスケボーと大都会のスラムの産物とみられたヒップホップが互いに影響し、化学反応を生み出してゆくさまを興味深くたどる。

 仲間内で撮った実写映像に加えて当時の関係者のインタビューが多数盛り込まれているが、いずれも中年になった顔つきは穏やかで、ヒップホップも「歴史」になったのだなと感慨が湧き起こる。

 そういえば同じ90年代にロックミュージックの博物館なんてものが出てきて、「ロックも歴史になった」などという声も聞かれたのである。

 とはいえそんなふうに感じるのは、想像と創造、ふたつの力が枯渇している証しかもしれない。時代が、社会が、そしてニューヨークという街までもが……?

 レム・コールハース著「錯乱のニューヨーク」(筑摩書房 1650円)は78年初版の有名な“奇想の建築論”。資本主義の砦たるニューヨークが欲望のままに正統的な近代建築を破砕した歴史をオランダの建築家が皮肉に論じて世界の建築界を扇動した。いまのニューヨークにあのころのような野蛮な活力はあるだろうか。そして21世紀はどこへ向かうだろうか。 <生井英考>

【連載】シネマの本棚

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  2. 2

    巨人・桑田二軍監督の電撃退団は“事実上のクビ”…真相は「優勝したのに国際部への異動を打診されていた」

  3. 3

    クマ駆除を1カ月以上拒否…地元猟友会を激怒させた北海道積丹町議会副議長の「トンデモ発言」

  4. 4

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  5. 5

    クマ駆除の過酷な実態…運搬や解体もハンター任せ、重すぎる負担で現場疲弊、秋田県は自衛隊に支援要請

  1. 6

    露天風呂清掃中の男性を襲ったのは人間の味を覚えた“人食いクマ”…10月だけで6人犠牲、災害級の緊急事態

  2. 7

    高市自民が維新の“連立離脱”封じ…政策進捗管理「与党実務者協議体」設置のウラと本音

  3. 8

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 9

    恥辱まみれの高市外交… 「ノーベル平和賞推薦」でのトランプ媚びはアベ手法そのもの

  5. 10

    引退の巨人・長野久義 悪評ゼロの「気配り伝説」…驚きの証言が球界関係者から続々