著者のコラム一覧
吉田潮ライター、イラストレーター

1972年生まれ、千葉県出身。ライター、イラストレーター、テレビ評論家。「産まないことは『逃げ』ですか?」など著書多数

<10>「もう絶望感しかないの…」母が電話口で泣き出した

公開日: 更新日:

 母は弱りきった声で「もう絶望感しかないの」と、電話口で泣き出した。そこで父だけでなく母もインフルエンザに感染したことを知る。夜、タクシーをとばして実家へ。高熱で疲労困憊の母、そして首の回りがドス黒く内出血している父が床に転がっていた。介護に絶望した母が渾身の力で父の首を絞めたのかと思った。違った。

 熱は下がったものの、手足にまったく力が入らない父は転倒し、手すりに顎を強くぶつけたのだ。床に転がった父を高熱の母は助けることもできず、老々介護の限界を目の当たりにした。本当はずっと前から限界だったのだ。 

 これを機に施設入居を決意。担当のケアマネジャーに相談し、介護認定の区分変更申請、ショートステイの手配、新設の特別養護老人ホーム(特養)への申し込みをお願いした。最良の選択をしたいので、特養とは別に12軒の施設の資料を入手し、4軒は見学もした。

 ネックは費用だった。有料老人ホームは入居時に数百万円か、または月額20万円以上かかる。父を高額な施設に入れれば、母は生活が苦しくなる。特養は月額14万~15万円だが、要介護3以上でないと入れないし、入居待ちも多い。このとき父はまだ要介護2だった。母は複雑な心境だったようだ。独居の寂しさ、自分が陥る生活不安、介護ストレスからの解放感、施設に入れる罪悪感。父への愛と憎しみが日替わりで交互に訪れる精神状態。私と姉は鬼と化し、施設入居を勧め続け、母も最後は納得した。結局、父は今回の申請で要介護4になり、しかも特養に入居できることになった。幸運すぎる! まあちゃん、持ってるな、と思った。

 当のまあちゃんはというと、時折寂しさを言葉の端々ににおわせたものの、入居を拒まなかった。施設の迎えが来た時に「長らくお世話になりました、サヨウナラ」と、おどけたのだ。その時は私も「まあちゃん、何言ってんの!」と笑った。でも、その夜、父の言葉を思い出したとき、なぜか泣けてきた。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    和久田麻由子アナがフジとTBSではなく日テレを選んだワケ 今週からついに新報道番組に登場

  2. 2

    小室圭さん家族3人ショットを「ニューヨーク・ポスト」が報道 1億円以上の新居から居住先、子供の性別まで赤裸々に…

  3. 3

    高市首相に浮上する「サミット花道論」地方選で連敗、就任半年で激ヤセ&ふらふら…“辞めろデモ”も拡大

  4. 4

    小室圭さん&眞子さんの「第1子の性別」を特定 NYポスト紙報道の波紋と今後憂慮すべきこと

  5. 5

    DeNA三浦監督まさかの退団劇の舞台裏 フロントの現場介入にウンザリ、「よく5年も我慢」の声

  1. 6

    ビートルズの“最脱力アルバム”の中でも脱力度の高い4曲を一気に

  2. 7

    萩本欽一(5)「親父はカメラ屋、母親はご飯も炊けない四国のお姫さまだった」

  3. 8

    “幼稚さ”露呈した佐々木朗希「報奨金事件」…ド軍日本人スタッフ2名が「7000万円超」もらえず?

  4. 9

    司忍、高山清司コンビによる「名門ヤクザ」コレクション

  5. 10

    阪神・立石正広は“走り方”にさえ問題あり 3度目の故障を招いた根本原因を専門家が指摘