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天野篤順天堂大学医学部心臓血管外科教授

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

心臓の手術後はなぜ「急性腎障害」が発症しやすくなるのか

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 もともと腎機能が低下している患者さんの場合は、術中に特殊な透析装置を使った「CHDF」と呼ばれる持続血液濾過透析を行い、腎臓にダメージを及ぼす物質を除去して保護しながら、手術がソフトランディングできるようにするケースもあります。

 こうした心臓手術後の急性腎障害を予防するためのひとつの方法として、体内の必須アミノ酸を点滴静脈注射で補充する「アミノ酸静注」が効果的だとする研究も報告されています。イタリアのIRCCSサンラファエレ科学研究所の研究チームが、人工心肺装置を使った心臓手術を受ける予定になっている3カ国の22施設の3511人の成人患者を対象に、手術室入室時点から最長72時間のアミノ酸静注が、術後の急性腎障害の発症リスクに与える影響を調べるランダム化比較試験を実施しました。その結果、術後の急性腎障害の発症は、アミノ酸群で474人(26.9%)、プラセボ群で555人(31.7%)で、アミノ酸静注を行った患者さんは急性腎障害の発症率が低かったのです。

 アミノ酸は、タンパク質を構成する基本的な有機化合物で、生命活動に欠かせない栄養素です。生体内で、タンパク質のほか酵素やホルモンなどの合成にも用いられます。腎不全の患者さんでは、腎機能の低下や尿毒症の悪化を避けるためにアミノ酸の摂取を制限されるケースが多いのですが、アミノ酸は腎臓の血管を拡張させて血流量を増やし、腎予備能(腎臓が持っている普段の活動に必要な能力を超えて障害を受けても対応して機能を維持する能力)を引き出す可能性も指摘されています。アミノ酸静注は、さまざまある心臓手術後に急性腎障害を招く要因のひとつを解決する手段になるかもしれません。

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