(45)死への道のりを心地よくする手配しか、私にはできないのだ
また、この認知症の認知状態は、調子の良い時と悪い時が時間単位、また数日単位で波のように繰り返される。その波全体が次第に下降していくのだと聞いた。
そんな日々でも、連絡や書類対応が続いていく。ケアマネジャーや施設の担当者とのやりとりは電話が中心で、毎月送られてくる大量の書類を確認・押印・返送する必要もあった。遠距離とはいえ、介護は日常にするすると滑り込んでくる。そして、正解のない状況のなかで、即座に判断を下さなければならないことも多い。
親は不可逆的に老いていき、やがて死という終わりへ向かう。その道のりをほんの少しでも心地よくする手配しか、私にできることはないのだ。それに、私自身もいつかこの道のりを、手助けしてくれる家族なしに歩いていかなくてはならない。そう考えると、時折恐ろしくなった。
ある日、母が要介護2から5になったとの連絡が入った。訪問看護の追加契約、ケアプランの見直し。また新たな決断と書類の波が押し寄せてくる。まだまだ、胆力が必要なようだった。 (つづく)
▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」。