どん底からの大復活! 横綱・照ノ富士直撃インタビュー「みんなに認められて初めて『横綱』に」

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 2021年は賜杯を掴むこと4度、77勝(13敗)で年間最多勝にも輝いた。一時は大関から序二段にまで転落しながら、不屈の闘志で大復活。波瀾万丈の土俵人生を送る横綱照ノ富士(30)が語る、理想の相撲、そして横綱としての姿とは──。

■理想の相撲とは

 21年11月場所は、自身初となる全勝優勝。千秋楽は大関貴景勝の当たりを真正面から受けながら、激しい攻防の末に押し出すという“横綱相撲”だった。照ノ富士は優勝インタビューで「理想の相撲に近づいている」と話していた。

 ──横綱にとっての「理想の相撲」とは、具体的にどのようなものですか?

「左上手、右四つでしっかり相手を組み止めてから寄り切る、という相撲ですね」

 ──相手の攻めを受けた上で勝つ、いわゆる横綱相撲ではないのですか?

「自分は特にその、横綱相撲とかは考えてはないんです。昔から、どっちかというといろいろなことができるタイプじゃないし、力任せの相撲が多かった。そもそも『受けて取る』スタイルなので、それを貫いてやっていこうというだけです。特に横綱だから横綱相撲だとか、横綱になったから受けて立とうなどは……。今の相撲は昔からずっとやってきたことと同じです」

 ──最初から相撲のスタイルは変わっていないと。

「そうですね。(自分は)体も大きいし、できることも少ない。その中でいろいろなことを考えた上で、『これが自分の相撲スタイルかな』と。その思いで今もやっています」

■モンゴル勢比較

 過去、モンゴル出身の横綱はいずれも先手、先手の相撲だった。朝青龍も速攻相撲を得意とし、日馬富士鶴竜(現親方)も同様。白鵬(現間垣親方)も一時期は「後の先」を極めようとしていたが、完成させることができず、「先の先」に切り替えた。

 ──モンゴル出身の先輩横綱のような相撲を取ろうと考えたことは?

「自分はその人たちみたいに才能がある力士じゃないんで……。(自分に)才能があるとすれば、それは恵まれた体と力なので、一つのことを貫いてやっています」

 ──横綱としての姿、立ち居振る舞いなどはどうですか? 白鵬関は素行や言動で何度も相撲協会に注意されましたが……。

「自分は自分のことで精いっぱいでしたからね。あそこまで成績を残された横綱に、何かを言う立場ではありませんから」

■親代わりの師匠

 照ノ富士を語るに当たって、欠かせないのが師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)。序二段に落ちて苦しむ愛弟子を陰日なたに支えてきた。照ノ富士が昇進した時は、万感の思いを込めて「ここまで来たんだなあ」と、語っていた。

 ──横綱にとって、伊勢ケ浜親方はどんな存在ですか?

「いろいろな面で支えてくれて、いろいろなところで助けてもらえて……何というか、親代わりに全部やってくれる方。感謝しかないし、何者にも代えられない存在です」

 ──日本国籍を取得した際、名字を師匠と同じ「杉野森」にしたのも……。

「はい、そういうことですね」

 ──印象に残っている師匠の言葉、教えはありますか。

「何事にも責任を持て、と。良いことがあっても、悪いことが起きても、それは全て自分の責任と思って行動しなければいけない、という言葉ですね。これは常々言われています」

自分のままで稽古に打ち込む

 前回のインタビューでは「理想の相撲とは右四つ左上手」と語った横綱照ノ富士(30)。2回目は序二段まで落ちた当時の心境や、理想とする横綱像などについて聞いた。

 ──1度目の大関時代(2015~17年)は、どのような相撲を取ろうと心がけていましたか?

「今とまったく同じです。右四つ左上手の相撲を取りたいと。でも、当時はなかなかそれができなかった。毎年同じことを繰り返して、ちょっとずつできるようになってきました」

 当時も「横綱昇進は確実」といわれていたものの、大関2場所目となる2015年9月場所で、右ヒザの前十字靱帯と外側半月板を損傷。その後も右鎖骨骨折、左ヒザ負傷とケガが連鎖し、大関陥落後は糖尿病やC型肝炎なども発覚した。これにより、長期休場を余儀なくされ、大関経験者としては初となる序二段まで番付を落とした。

■「素直に『やめたい』と

 ──当時の心境は……。

「どのような心境というか、これは毎回言ってますけど、素直に『やめたい』としか思ってなかったんで」

 ──師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)からは奮起を促された。

「そのことについては(取材で)毎回、同じ質問をされる。でも、僕の答えは同じ。あなたもご存じかと思いますけど、答えは変わりませんから」

 伊勢ケ浜親方は「やめたい」と悩む弟子に「まずは病気を治してからだ」と叱咤激励。諦めず、前を向いたことで今につながったものの、なにせ苦悩に苦悩を重ねていた時期。昨年11月に上梓した初の自伝「奈落の底から見上げた明日」(日本写真企画)では、医師から「このままだと、あと2~3年しか生きられませんよ」と告げられたという衝撃の事実を明かしている。そうした苦境を乗り越え、19年3月場所で復帰した序二段の土俵の印象は本人にとっても強い。

 ──横綱は復帰戦の一番が、今まででもっとも緊張したそうですね。

「緊張したことがないんですよ。その時、初めてフワフワ感というか、体が震えるというか。自分がどんな相撲を取ったのかまったく覚えていない。ああ、これが緊張なんだな、と思いました」

 ──その一番以外で緊張したことはない?

「そうですねえ……」

 ──両ヒザの状態について。

「これ以上良くなることはないと思います。相撲を続けている以上、(ヒザのケガとは)付き合っていくしかない。悪化するかしないかは、その時にならないとわからないですよ。どんなにいいサポーターを着けたからといって、ケガをしないわけじゃない。痛くないわけではありませんから」

 ──理想とする横綱の姿とは。

「以前からいわれている通り、成績を残すだけが横綱じゃない、と。みんなが認めてくれるかどうか、ですよね。昇進したからといって、特に自分を変えるわけじゃない。自分は自分のまま、この思いを貫くのが一番大事。そうやって相撲に打ち込む姿をみんなに見せて、これまで通り頑張るだけです。それで(世間が)横綱だと認めてくれて初めて、『俺は横綱になったんだ』と自分でも思えるようになる。認めてくれなかったとしたら、『まだ横綱にはなれてないんだ』と。それは常々思っています」

(聞き手=阿川大/日刊ゲンダイ

▽照ノ富士春雄(てるのふじ・はるお) 本名は杉野森正山(せいざん)。1991年、モンゴル・ウランバートル出身。2010年に間垣部屋に入門し、部屋の閉鎖に伴い13年に伊勢ケ浜部屋に移籍。15年7月場所から大関に昇進。その後は両ヒザのケガと病気もあり、17年に大関から陥落。19年には序二段まで落ちるも、20年に返り入幕、21年3月場所後に大関再昇進。5月場所を制し、7月場所後に悲願の横綱昇進となった。通算優勝6回。192センチ、184キロ。得意は右四つと寄り。

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