著者のコラム一覧
元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

浦和・酒井宏樹は根っからの「いい人」限界を超えても頑張り続ける

公開日: 更新日:

酒井宏樹(浦和/31歳)

 長友佑都(FC東京)や大迫勇也(神戸)ら30代ベテラン勢への逆風が日に日に強まる中、右サイドバック(SB)の酒井宏樹(浦和)は、1月27日のカタールW杯最終予選・中国戦で圧倒的な対人能力を見せつけた。

「化け物的な印象は変わっていない。ただ、足が速いだけじゃなくて日本人では見たことのないパワフルさがある。これは(競争相手としては)大変だな」と同ポジションの山根視来(川崎)も絶賛。圧倒的な存在感で2月1日の天王山・サウジアラビア戦の勝利を引き寄せること。それが彼のタスクだ。

■化け物の印象を色濃く残した

 2012年ロンドン五輪直後にドイツ1部・ハノーファーに赴いて4シーズンを過ごした後、2016年夏にはフランスの名門・マルセイユへ移籍。5シーズンに渡って活躍し、ブラジル代表ネイマール(PSG)など世界最高峰FW陣と互角に渡り合ってきた。

 そんな百戦錬磨のトップSBが2021年春、9年ぶりにJリーグに復帰するというニュースが流れた。  

 新天地は浦和。1年半後にカタールW杯本大会を控えた大事な時期に環境を変えるのはリスクも大きい。先行きを不安視する声も高まった。

「クラブでの充実感やモチベーションが自分の中では一番。それを重視してレッズを選びました。僕のコンディションが落ちれば、森保さん(監督)も自然と選ばなくなる。それは伝えています。ムリならもう代表には選ばれない。そのくらいの覚悟を持って日本に戻りました」

 2021年6月の移籍会見。彼は周囲の懸念を打ち消すように語気を強めた。その直後には東京五輪にオーバーエージ枠の1人としてフル稼働。メダルには手が届かなかったものの、スペインやメキシコ相手に1対1の強さやボール奪取力を強烈にアピール。冒頭の山根の発言通り、「化け物」という印象を色濃く残した。

■優しい人柄で人知れずムリを重ねる

 このように一見、強面のイメージが強い酒井だが、素の姿は根っからの「いい人」である。

 ハノーファー時代の2013年冬、練習場を訪れた筆者が「どうしても話が聞きたいから、帰宅時間にスタジアムの門前で待っててもいい?」と尋ねると「いいですよ」と快諾。20~30分間、丁寧に取材に答えてもらったことがある。

 その後も「元気?」と気さくに声をかけてくれる。2021年11月の最終予選・オマーン戦でマスカットまで弾丸取材に出向いた際には「あー、来たんだ」と笑顔で言われた。ごく普通の感覚で会話できる代表トップ選手はそうそういない。筆者も常にホッとさせられる。

 優しい人柄だけに、人知れずムリを重ねてしまうのだろう。灼熱の夏を乗り越え、8月中旬から浦和に本格合流したが、オフなしで戦い続けたのが祟って疲労困憊の状態に陥った。

 最たるものが、9月の最終予選初戦・オマーン戦だった。日本は低調なパフォーマンスに終始し、伏兵にまさかの苦杯。酒井も珍しく精細を欠いた。

 直後には代表を外れて浦和へ強制送還された。森保監督も疲れ切った彼を見かねて判断を下したのだろうが、そうでもしなければ、限界を超えても頑張り続けてしまう。それが酒井宏樹という生真面目な人間なのである。

最終ラインをしっかりと引き締める

 結局、11月のベトナム、オマーンとの2連戦はケガで欠場。浦和の天皇杯制覇には貢献したとはいえ、昨年終盤はフィジカル、メンタルともに状態が良くなかったのは確かだ。

「去年の最後の方は『ただ、試合をこなしている状況』だった」と本人も国内組代表合宿の締め括りとなった21日の流通経済大戦後に本音を吐露したが、とにもかくにも2021年は、あまりにも目まぐるしすぎた。常人だったら早々とリタイアしていてもおかしくなかった。

 芯の強い彼だからこそ、乗り切れたのだろう。

 心身ともにいったんリセットし、迎えた2022年の初戦・中国戦。酒井は開始11分の伊東純也(ゲンク)のPK奪取を誘う鋭いタテパスを入れ、無双状態の背番号14の攻撃参加を背後から力強くサポートし続けた。

 組み立ての際のパスミスが多いという指摘もあったが、外国人SBを見間違えるかのような強さとタフさ、存在感を示し続したのは事実。最終予選残り3戦も任せてよさそうだ。

 さしあたって次戦のサウジには、是が非でも勝ち点3が必要。W杯出場に王手をかけた宿敵にペースを握らせないためには、ネイマールらを止めてきた酒井の対人能力が不可欠。吉田麻也(サンプドリア)ら不在の最終ラインをしっかりと引き締めてほしいものである。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁は疑惑晴れずも日曜劇場「キャスター」降板回避か…田中圭・妻の出方次第という見方も

  2. 2

    紗栄子にあって工藤静香にないものとは? 道休蓮vsKōki,「親の七光」モデルデビューが明暗分かれたワケ

  3. 3

    「高島屋」の営業利益が過去最高を更新…百貨店衰退期に“独り勝ち”が続く背景

  4. 4

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  5. 5

    かつて控えだった同級生は、わずか27歳でなぜPL学園監督になれたのか

  1. 6

    永野芽郁×田中圭「不倫疑惑」騒動でダメージが大きいのはどっちだ?

  2. 7

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  3. 8

    第3の男?イケメン俳優が永野芽郁の"不倫記事"をリポストして物議…終わらない騒動

  4. 9

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 10

    永野芽郁がANNで“二股不倫”騒動を謝罪も、清純派イメージ崩壊危機…蒸し返される過去の奔放すぎる行状