元関脇嘉風・中村親方〈3〉「稽古は嫌い。それでも土俵で得られる快感のために受け入れていました」
「30歳を越えてから、相撲を取ることが本当に幸せだった」
中村 相撲は気持ちも大切ですが、やっぱり体調を整えて体を鍛えるのが絶対に大事。そのために酸素ボックスを入れて、専属トレーナーさんの接骨院で、定期的な治療も受けている。万全の状態で稽古に臨み、鍛えて実力を上げていく。そして本場所で示す。ウチの部屋は大きなケガをした力士が少ない。だから今のやり方が正解かどうかはわかりませんが、不正解でもないな、と思っています。
僕は30歳を越えてから、相撲を取ることが本当に幸せだった。千秋楽の翌日に初日が来てもいいと思っていましたから。それくらい、土俵で相撲を取りたかった。土俵での快感や幸せは、あの場所でしか味わえない。でも、稽古は嫌いだった。相撲を取ることが生き甲斐にはなっていましたが、じゃあぶつかり稽古が好き? 好きじゃないです(笑)。相撲を取る稽古は好きだった? そうじゃない、と。それでも土俵で得られる快感、幸せのため、稽古はやらなければいけない。
吉田 なるほど。
中村 目的意識を持ち、目標設定をし、そのために「何をしなければいけないか」と自発的にやれるような環境が大事なんです。(元大関琴風の先代)尾車親方はそうした環境をつくってくれたし、僕も弟子には目的意識を持った力士になってほしい。ここで一旗揚げるんだとか、ここには得るものがあるんだ、とか。
実際、相撲は痛いし、苦しいですよ。相撲を1番取ったら、最低でも2カ所3カ所、どこかに痛みを感じる。ぶつかり稽古は痛いし、苦しいし、しんどい。ネガティブなイメージだらけです。例えばまあ、野球と相撲は違いますが、野球選手が「今日は紅白戦やるぞ」と言われたら、みんな「よっしゃー!」って跳び上がって喜ぶんです。でも相撲は「今日は相撲を取る稽古はしないよ。ぶつかり稽古もないよ」と言ったら、「よっしゃー!」と口には出さずとも、みんな心の中でそう思っているんですよ。
そんな僕が30歳を越えて相撲が楽しくなってきた理由の一つが、筋トレなんです。それまで当たった時の衝撃で痛かったものが、鍛えることで痛くなくなった。そうなると恐怖心がなくなり、思い切って当たっていける。だからこそ、力士は体を鍛えることも体を休めることも大事なんです。 =つづく
(構成=日刊ゲンダイ編集部)
▽中村雅継(なかむら・まさつぐ)本名は大西雅継。1982年、大分県佐伯市出身。2004年に尾車部屋に入門し、同年1月場所が初土俵。05年新十両、06年新入幕。19年に引退するまで、長く幕内の土俵を務めた。現役通算94場所で、649勝642敗30休。三賞10回、金星8個。最高位は関脇。



















