「田原俊彦論」岡野誠著/青弓社/2000円+税

公開日: 更新日:

 本編296ページ、参考文献・資料及び各種データ101ページという超大作である。現在44歳である私自身、田原俊彦については「『NINJIN娘』とかいう変な歌を歌っていた、かわいいお兄さん」ぐらいのイメージしかなかった。

 一回りほど上の世代のスーパースターだった彼だが、彼の全盛期に私はアメリカ在住だったため、その活躍は知らない。正直、私は田原には何の関心もないのだが、それを差し引いても「1980年代以降の芸能史」を知るにあたって実に貴重な資料として本書は輝きを放つ。

 とにかく面白いのである。書籍というものは、そのタイトルに込められたキーワードに心を揺さぶられた場合に読んでみる気になるものだが、本書はそうした範疇を超える。何しろ田原俊彦に興味がない者であっても「ページをめくる手が止まらない」という状態になるのだ。しかも、取材相手は田原本人に加え、「教師びんびん物語」などで共演した野村宏伸や田原のバックダンサーを務めた元CHA―CHAの木野正人らの著名人はさておき、一般人は知らない振付師やテレビディレクターらが続々と登場する。

 それでも面白いということにこそ、本書の神髄というか膨大な取材と資料を基にした本気の執筆の成果が見えるのである。田原がいかにしてスターダムにのし上がるかの詳細に加え、いわゆる「ビッグ発言」以降、干されたことから復活までをつぶさに記す。

 著者は「日本で初めてムーンウオークをした芸能人は田原」の検証に膨大なる映像を見て結論づける。「ビッグ発言」は当初は問題視されていなかった、といった点まで検証を加える。

 さらには、日本のエンターテインメントの構造についてもうなる分析を見せる。それは視聴率に関する部分だ。1984年に視聴率78・1%だった「紅白歌合戦」が86年に59・4%に下がったことの要因がテレビのリモコンの普及にあると分析する。85年に31・2%の普及率だったが、毎年10%前後の割合で急増し、90年には82・9%となった。

〈それまではチャンネルをわざわざ回しにいく煩わしさもあって興味がない歌手の曲も続けて視聴していたと思われるが、手軽にチャンネルを切り替えられる便利な機器の登場で、自分が好きな歌手だけを見る体制が整った〉

 田原に過度なバッシングをしたメディアへの批判も随所に盛り込まれ、メディアリテラシーの教科書としても有用な書である。 ★★★(選者・中川淳一郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  2. 2

    ヤクルト「FA東浜巨獲得」に現実味 村上宗隆の譲渡金10億円を原資に課題の先発補強

  3. 3

    どこよりも早い2026年国内女子ゴルフ大予想 女王候補5人の前に立ちはだかるのはこの選手

  4. 4

    「五十年目の俺たちの旅」最新映画が公開 “オメダ“役の田中健を直撃 「これで終わってもいいと思えるくらいの作品」

  5. 5

    「M-1グランプリ2025」超ダークホースの「たくろう」が初の決勝進出で圧勝したワケ

  1. 6

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  2. 7

    福原愛が再婚&オメデタも世論は冷ややか…再燃する「W不倫疑惑」と略奪愛報道の“後始末”

  3. 8

    早大が全国高校駅伝「花の1区」逸材乱獲 日本人最高記録を大幅更新の増子陽太まで

  4. 9

    匂わせか、偶然か…Travis Japan松田元太と前田敦子の《お揃い》疑惑にファンがザワつく微妙なワケ

  5. 10

    官邸幹部「核保有」発言不問の不気味な“魂胆” 高市政権の姑息な軍国化は年明けに暴走する