「信仰と医学」帚木蓬生著

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 ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の〈大審問官〉の章に16世紀のスペインのセビリアにキリスト(らしき人)が現れるという挿話が出てくる。この小説が書かれたのは1879~80年。イエスならぬ聖母マリアが顕現したのはその20年ほど前のこと。

 1858年2月11日、フランス南部のピレネー山脈の麓に位置する小村ルルドで、14歳の少女ベルナデットが、近所の岩山の洞窟で白い婦人の姿を見る。以後、その女性は5カ月間に18回ベルナデットの前に姿を現す(他の人には見えない)。

 ベルナデットが洞窟に通って祈る姿を見て、その女性は聖母マリアらしいという噂が広まっていく。そして右手が麻痺(まひ)していた女性が近くの泉の水を飲むと、その麻痺が癒えた。以後、多くの病人が奇跡の治癒を求めてルルドを訪れるようになる――。

 これが有名なルルドの泉の奇跡である。精神科医でもある著者は、これはプラセボ効果、つまり心理的な要因によるものだと思っていたのだが、この奇跡を検証する国際的な医学評議会があると聞いて驚く。ベルナデットの時代から現在に至るまで奇跡の治癒として地区の司教から公認されたのは70例。そのうち第2次世界大戦後に設立されたルルド国際医学評議会が「現在の科学知識では説明不可能な治癒」と認定したものが30例。

 はるか昔の宗教的な現象と思っていたこのルルドの泉が、今現在でもその効能を発揮し、医学的な検証がなされているというのは衝撃的だ。

 著者は言う。ルルドとは、医学が人と人との関係、接触、傾聴の上に成り立っていることを再認識させてくれる場所である、と。あまりにも機械や器具に頼り過ぎている今日の医学への強力な批判として、ルルドの泉は今もなお健在なのだ。

 <狸>

(KADOKAWA1600円+税)


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