「ざんねんな食べ物事典」東海林さだお著/文春文庫

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「ざんねんな食べ物事典」東海林さだお著

 東海林さだお氏の作品(漫画・エッセー)は、「その発想があったか」と思わせてくれるものが多い。時にこのアイデアで自分が儲けられるかも! といった提案をし、あまりにもヘンテコな妄想に発展し、「そんなこと不可能か……」とタンマ君がうなだれるかのように、その議論を終わらせる。

 今年86歳になる同氏だが、その想像力と奇想天外な妄想はますます冴えを見せている。フランスの美食家・サヴァランによる「あなたがどんなものを食べているかを教えて欲しい、そうすればあなたの人となりが分かる」にかけて、東海林氏は歯を磨くスピードで人となりが分かるという説を唱える。

 入社試験も選挙も歯を磨いてみせれば人となりが分かる、と主張するのだが、さすがにセカセカした人物かゆったりとした人物かが分かるだけで、人となりなど分からないと認める。この無理やり感↓反省の流れが面白いのである。

 東海林氏の作品では「うん、ここまでは論理的だな」というフレーズが時々登場する。過去作品では、モテない男が街行くカップルに嫉妬するというコマがある。その男はじゃれ合いながら飛ぶ蝶にも嫉妬し、おしべとめしべが付いた花に嫉妬。そのさまを見て、一緒にいる友人が「論理的だな」と安心する。しかし、その後男は想像力がぶっ飛び、安倍という表札にも怒りを覚える。「アベック」を連想するからだ。その後、煎餅布団にも怒り、噛みついているが、安倍川餅を連想し、友人は「まだ論理的だ」と安心する。

 本書でもこのぶっ飛び過ぎた発想は存分に発揮されている。バブル期に若者が多かったため、自動車がよく売れたが、高齢化時代、乾燥した高齢者の体が痒くなりがちなことから、「孫の手」がバカ売れするといった妄想もする。根拠として、痛い・熱い・圧迫感といった感覚の欠如は大ごとにつながる恐れがあるが、「痒い」はあってもなくてもいい感覚だと説明。さらに、痒みは「かくと快感」という利点があるという。そこから、孫の手が売れるようになり、快感を求めるため「ヒム」という痒くなる薬が売られ、蚊が高値で取引され、蚊帳が売れる──もう話はむちゃくちゃなのだが、思考の訓練としてこうした妄想は誰にも必要だ。

 さらには著者の十八番ともいえる突撃取材モノも健在。飲み放題の酒蔵ツアーでは、参加者が突然踊り出すといった報告をしたり、おでんのタネで大根がエラソーなのが理不尽であるといった考察も「確かに」と思わせる。 ★★★(選者・中川淳一郎)


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