末期がんで余命わずかの65歳男性…緩和ケア病棟か自宅療養か
切迫した様子が伝わり、少しでも安心していただければと、その日のうちにご自宅を訪問することにしました。
「外来受診時に余命についてお話はありましたか?」(私)
「それが聞けなかったんですよね……。私は退院時に『あと1カ月くらい』と聞いて、もう1カ月たつので、残りもそれくらいなのかなと」(娘)
「緩和ケア病棟の申し込みはどうなりましたか?」(私)
「病院の先生に『申し込みは不要。体調が悪化したらいつでも受け入れるから、そのときに入院してから申し込めばいい』と言われました」(娘)
「なるほど。体調が悪化した際は入院する方向でよいでしょうか?」(私)
「そこが家族の間でも意見が分かれていて……。母は『できれば最期まで自宅で過ごさせてあげたい』と話していました」(娘)
「わかりました。その点は改めてご家族とお話しさせてください。まずは患者さんの診察をしましょう」(私)
在宅医療では、日々患者さんやご家族と向き合い、病状の変化に応じて苦痛を和らげたり、医療方針を一緒に考えたりします。揺れる家族の気持ちを受け止め、限られた時間の中で最善の道をともに探っていくことも、在宅医療の大切な役割です。