(1)社長が独白!創業90年の米屋はなぜ閉店せざるを得なかったのか
年が明けると、品不足の傾向はより強まった。この頃になると業者間の融通は皆無となり、いよいよ玄米を確保する手段がなくなってきた。そうした中で出された備蓄米放出の決定。「打開策になるかもしれない」と望みを託した2月には、考えられるあらゆるルートで獲得への手を尽くしたが、巨大組織の前で地方の一米穀店はあまりに無力だった。
日々減っていく在庫をにらみ、注文を断らねばならない事案が増えた。仕事のなくなった職場には沈鬱な雰囲気が漂ったが、焦る私を前にスタッフたちは気丈だった。話し合いの中で、「納得いかないものを仕入れて売るくらいなら、いったん退こう」と結論を導きだした。
閉店にあたっては、ポスターを掲示することにした。当初は必要最小限に閉店を伝えようと考えた。プライドが邪魔をし、恥ずかしいという思いも少なからずあったからだ。しかし、「良いものにこだわってきたからこそ、閉店する」という思いと、顧客の求めに応えられない申し訳なさを表すためには必要な掲示だというスタッフからの進言に従うことにした。それでも、「必要以上にあおることにならないか」との懸念もあり、閉店前には祖父の墓を訪れて心の沈静を図った。