(42)実家に戻って初夏の庭先が目に入った瞬間、言葉を失った
しばらくして地域の担当者から電話が入り、「柿の木のだいぶ茂っとるですねー、どぎゃんしなはっですか」と熊本弁で丁寧に聞いてくれた。お隣の家を覆い隠すように枝を広げていた柿の木は、短く切ってもらうことにした。
剪定当日。朝7時半に、シルバー男性5人がそろって登場した。聞けば、ほとんどの方がもとは別の仕事をしていたそうで、剪定の技術はシルバー人材センターに入ってから学ぶのだという。今回はその中でも指導役となる元本職の方が含まれるチームだとのこと。
作業は2時間ほど。のび放題だった枝は整えられ、見違えるようにきれいになった。玄関前でちぎれていた雨どいの鎖も直してくれた。
なかでもうれしかったのは、「空き缶を使った鳥の水飲み場が、いくつもの木に取り付けてありましたよ。お父さんがなさったんでしょうね。今日はお父さんと会話しているような気持ちで剪定しました」と語ってくださった方の言葉だった。
庭の木にそんなものがあるとはまったく知らなかった。晩年は静かに暮らしていた父の、誰にも言わなかった営みを思い、胸の奥にじわりと何かが残った。(つづく)
▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」。