(26)意地を張らず、父ともっときちんと話をしていれば

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 実家には、変わらぬ日常の名残がそのまま残されていた。ダイニングテーブルに置かれた卓上カレンダーに、母の入院した日から1、2と順に数字が書き込まれているのを見つけた。父は、母が元気になって帰ってくると信じていたのだ。

 葬儀を終えて実家に戻ると、ポストに封書が届いていた。母の介護度を知らせる通知だった。なぜこのタイミングなのだ。私は崩れるような無力感を覚えた。もしこれが予定通りに年内に届いていれば、私は年末に帰省していただろう。そのとき、父がどれほど衰えていたかに気づけたかもしれない。あのまま意地を張らずに、もっときちんと話ができていたのではないか。

 通知は「要介護2」だった。父がいなくなった今、母が自宅に戻って2人で生活するという未来は、もう永遠に閉ざされたのだ。私はその通知を黙って机に置いた。 (つづく)

▽如月サラ エッセイスト。東京で猫5匹と暮らす。認知症の熊本の母親を遠距離介護中。著書に父親の孤独死の顛末をつづった「父がひとりで死んでいた」。

【連載】突然、母が別人になった

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