75歳男性患者の暴言の奥にあった「できなくなること」への苦しみ
「はい」(息子)
「腹水のことも本人からお話がありました。当院で抜くことも可能なんですが、腹水を抜くとタンパク質も一緒に失われてしまいます。通常、タンパク質が血管内に水分を引き寄せてくれているのですが、病気が進むとその働きが低下するため、単純に抜けばいいとも言えないのです」(私)
入居後、暴言や暴力は次第に落ち着いてきました。マイナンバーカードの暗証番号を覚えていたり、薬を選り好みしたり、座薬を拒否したりと、自己主張ができるほど意識もはっきりしていました。
ところがある日、一時外泊で自宅に戻った際、自暴自棄になり「もう死にたい」と言い放ち、息子さんが運転中のキーのかかった車を奪おうとしたのです。
幸い大事には至りませんでしたが、高齢になると現役のころは当たり前にできていたことができなくなり、強いストレスや焦燥感を覚える方は少なくありません。息子さんは懸命に介護を続けていますが、弱っていく父親を前に深く困惑している様子が伝わってきました。
衰えゆく患者さんを看取るご家族の気持ちにも寄り添いながら、患者さんが悔いなく過ごせるようQOL(生活の質)の向上を最後まで諦めずに支えていくこと--。それは正解のない問題への答えを探し続ける作業です。しかし私は、それこそが自宅や施設での医療における最も重要な仕事のひとつだと考えています。



















