認知症の症状に配慮し、本人も家族も穏やかに過ごせるよう調整を重ねた
それに対して周辺症状は、環境要因や心理要因などが加わって起こる精神症状や行動障害。怒りっぽくなる、混乱する、攻撃的になる、徘徊する、幻覚や妄想が出る、せん妄や暴力といった形で現れることがあります。
特に認知症患者さんの「せん妄」は、術後や入退院などで一時的に起こるせん妄とは異なり、持続的に見られることが特徴です。こうした周辺症状は、ご家族にとって通常の介護とはまた違い、物理的にも精神的にも大きな負担となります。
周辺症状が起こる要因は「遺伝的要因」「神経生物学的要因」「社会的要因」などさまざまですが、療養中はできる限り発症しないよう注意を払い、ご家族が介護を続けられるように当院が訪問診療で支えてきました。
この3年間、ご家族とともに薬の調整や住環境の工夫、体調管理を行いながら、患者さんが穏やかに過ごせるよう調整を重ねてきました。もちろん症状には個人差があり、医学だけでは対応しきれないこともあります。しかし、患者さんが日頃から気にかけている言動や、感情的になりやすいことがらなどを事前にご家族からお聞きして、周辺症状を引き起こすきっかけを見つけて回避するなど、ご家族と連携を密にしながら支援を続けたのです。
そして最期は、ご家族がそろって自宅で看取られるという、かけがえのない時間を過ごすことができました。
このように、繊細で丁寧な対応が求められる認知症の患者さんにこそ、在宅医療の力が最大限に発揮されるのだと改めて感じます。